976人が本棚に入れています
本棚に追加
何一つ難航することなく打ち合わせがまとまって、目の前に置かれているコーヒーを口に付ける。冷え切った液体が、喉をしっとりと潤した。
今日の打ち合わせは、ここまでで良いだろう。
そろそろ2時間が経過することを確認して、広げていた資料をまとめた。
同じようにアイスティを呑んでいた夏目がこちらを見て、声をかけてくる。それに手を止めれば、ちらちらとこちらの手元を見ながら夏目が口を開いた。
「黒木さんって、ご結婚されてるんですね」
何の話か、と一瞬思考が固まって、すぐに思い返す。自分の指に嵌っている指輪について突っ込まれるのが久しぶりで、忘れかけていた。
「ああ、まあ」
「いつご結婚されたんですか?」
「そんなに前ではないですね」
明言を避けてやんわりと伝える。
初日にこの指輪を付けて行った時には、とうとう彼女ができたのかと騒がれまくった。それを彼女ではなく嫁だと訂正すれば、次には冗談よせよと笑われる。
これを何度か繰り返して、ようやく俺が結婚したらしいことが認められた。
思い返しても苦笑いが出る。
「でき婚?」と聞かれることがほとんどで、そのことにいちいち目くじらを立てる気力もない。ただ否定を入れて、訝しげにこちらを見ている同僚を無視することにした。
最初のコメントを投稿しよう!