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「黒木も無理すんなよ。もうお前だけの体じゃねえんだから」
「兄ちゃん、それ妊婦相手に言う言葉じゃない?」
「あれ、そうだっけ」
漫才のような掛け合いに笑って立ち上がる。三人分の伝票を取ろうとすると、横から掻っ攫われた。その手の先を見れば、律がむっつりした表情で、明後日の方向を見ていた。
「いい」
「あ?」
「俺が払う」
まさか年下に払うと言われるとは思わない。すぐに取り返そうとしていれば、今度こそ真っ赤な顔と目が合った。
「だから! 結婚祝いに払うっつってんだよ! こんな野郎に払ってる暇あったら、朝佳姉ちゃんにいいモン食わせろ」
横で門田が笑っている。口パクで先帰ってと言われて、小さく頷いた。朝佳の小さなナイトが視線をそらしているうちにソファとテーブルの間から出た。
「悪い。先行くわ。世話になった。……律、また今度飯な」
俺の言葉に、律が何と返事をしたのかは知らない。
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