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「うるせえよ……、別に、なんてことねえ」
バイトの事も、朝佳とのことも、親父とのことも、全部見透かされている気がした。頑張っているとか、よくやっているとか、そんな言葉をかけてくるものなど、あの家にはいなかった。
いつも自分のことだけしか考えていない人間ばかりで、生やさしい言葉など、聞いたこともなかった。
「無理しすぎるな、別にそれも返さなくていいが……、お前の性分じゃ、返さなきゃ気ィ済まねえんだろ」
「必ず返す、時間はかかると思う、けど、必ず」
「ああ、わかってる」
兄に渡された紙袋を見れば、中には必要以上の札束が入っている。確認してから「多い」と言えば、気付くの早えよ、と呟かれる。
「貯金して、どうしようもねえ時に使え。使わなかったら、まとめて返せばいい。……家出るんだろ」
どこまでも見透かされている。小さく笑ったら、兄が同じように笑った。
「わかった。……あのマンションは出る。行動監視されてるみてえだし」
「ああ? 相変わらずあのクソ親父はどうしようもねえな」
兄があの男を貶しているのを初めて見た。呆然と見ていれば、兄がさも可笑しそうに笑った。
「お前が先に全部言うだろ。それで黙ってただけだ」
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