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この歳になって今更兄のことを知った自分も可笑しいが、兄も同じように可笑しいらしく、声をあげて笑っている。
「兄貴」
「ん」
「俺、結婚するわ」
少し前に、書斎でコケにされた決意をもう一度呟いて、隣を見る。
兄は一瞬目を瞠ってから「マジでか」と声をあげた。どうやらそこまでは聞こえていなかったらしい。
なぜここで告げたくなったのか自分でもわからない。そのくせに、声が飛び出していた。
「相手、あのクソタヌキが選んだやつじゃないだろうな」
「んなわえねえだろ。そいつと結婚してえっつったら、虫けらみてえに見られた」
「ああ、そりゃそうだろうな。いい女見つかって良かったな。さっさと籍入れとけ。でなきゃ俺みたいに想ってもいねえ女と籍入れられんぞ」
「あ?」
まさかそんな事情があったことなど知らない。呆然とする俺を横目に見た兄が苦笑した。どうやら俺が知らないことを想定していなかったらしい。
「もう終わったことだよ。俺も考えが足りなかった。……三島優姫っていただろ。あそこのグループも結構ドロドロで、現当主の兄貴が駆け落ち婚でそのまま無理心中したりとか色々ゴシップネタが多かったんだ。だから、俺と優姫を婚姻関係にして、三島グループを乗っ取りたかったんだろうよ」
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