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つくづくあの男が考えそうな反吐の出る計画だ。眉を顰めれば、同じように眉間にしわを畳んでいる兄の表情が見えた。
兄は俺より、よっぽどあの男の被害に遭っている。
どうして兄が戦っている間、俺は無関心を貫き通していたのだろう。
毎年正月のあの面倒に巻き込まれるのは兄だった。全部を兄に投げ出して不貞腐れていた俺が、兄にはどんなに憎らしく映っただろうか。
「しあわせになれよ。あのくそみてえな家でお前は良く耐えた。兄ちゃんが、応援してやる」
それでも兄は、笑っていた。
俺の髪をぐしゃぐしゃに乱して「兄貴より先に結婚しやがって」とふざけた。
この感情を言葉にするには、どうしたらいい。この男を前に、何度も絶望した。
越えられない壁のようで、ずっと辟易としていた。本能的に勝てないことがわかっていたのかもしれない。
車が俺の住むマンションのエントランスに横付けされる。
ついたぞ、と外へ出ることを促されて、ようやく俺は、一生この男には敵わないだろうことを認めた。
きっと永遠に、この男は俺にとっての兄貴であり続ける。
兄にもらった金が入った紙袋を引っ掴んで、ドアを開いた。この先も、常に素直になりきれない俺を、兄は後ろから見続けてくれているのだろう。
「ありがとう」
「ああ」
「……兄貴が兄貴で、良かった」
最後に小さく呟いてドアを閉めた。
兄は俺の言葉に瞼を瞬かせている。それを尻目に、エントランスへと足を進めた。
現実に立ち向かう覚悟なら、とっくにできている。
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