スーサイドリスト 「新生活のセレナーデ」

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相変わらず笑う男がこちらを伺っている。まるでこちらを挑発するような視線が鬱陶しい。 まるでじゃなく、俺を挑発したいのかもしれない。乗るのも面倒になって、酒を呷った。俺が朝佳に必死になっているのを、こいつはずっと見ていたらしい。笑えてくるくらいクソな趣味だ。 朝佳も知っていたのだろう。あれこれとうわさを流されても気にすることなく立っていた。きっと、この趣味の悪いゲームは何度か行われていて、朝佳はその誰とも付き合わなかった。この男がそうさせた。 「そんなに欲しいなら、お前が必死こいて土下座すりゃ良かったんじゃねえの」 吐き捨てるような声が出た。そんなこと一ミリも思っていない。あいつのために必死になって、それであいつが振り向くのが俺一人であれば良いと思っている。歪んだ性癖を持っているらしい慎之介があいつにどんな感情を抱いているのか、ようやく理解できた気がした。俺もこいつも、結局は同じ穴の狢だ。 「正々堂々行けばいいだろ。アイツが好きだって、言えばいいんじゃねえの」 慎之介と朝佳の間に何が起こったのか俺にはわからない。まさに慎之介が言う通り、何も知らずに惚れただけだ。
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