聖なる巫女は頭を抱えたい

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「じゃあねー、柚希(ゆずき)!」 「うん、また明日ー」  通学路の分岐点で手を振る親友に笑顔で手を振り返す。  そして、親友の背が見えなくなると、あたしは笑みをふっと消し、自宅への道を小走りに急いだ。  だがそれは、帰宅を喜んでいるからではない。むしろ、心配でならないからだ。  あいつ、余計なことやらかしてないだろうね。  眉間に皺を寄せながら高層マンションのエレベータに慌ただしく乗り込み、自宅のある階へ。扉に手をかけると。 「おお、ワルツ! そなたの掃除能力は、今日もまっこと素晴らしいものであるな!」  やたら感嘆に満ちた声が扉の向こうから聞こえてきて、あたしはがっくりと両肩を落とす。  いや、これで呆れてたって仕方無い。慣れろ、慣れろあたし。気を取り直して扉を開ける。 「ただいま~……」  何となく引き気味になってしまう声音で一応帰宅を告げれば、「おお!」と大仰な声が飛んできて、声の主がぱたぱたとスリッパの音を立てて玄関までやってきた。 「お帰り、ユズキ! ワルツは私が手を出さずとも、見事に室内を掃除してくれるぞ! なので私は安心して洗濯と風呂掃除と夕飯作りに取り組む事ができたのだ!」  演劇か、とばかりに大袈裟に両腕を広げてみせるは、見事な金髪に碧眼の青年。顔のつくりは、そこいらのホストクラブのホストが絶望して清水の舞台から身投げしかねないほどの美形。キラッキラしているのである。もう本当に、この世のものではないとばかりに、キラッキラ。  そのキラッキラ美青年が、小さいお友達にも大きいお友達にも大人気のキャラクターがプリントされたエプロンを身につけて、今大人気なげっ歯類の車を模したスリッパを履き、三角巾をかぶっている。明らかに現代日本に似つかわしくない姿である。ついでに彼がワルツと言っているのは、別の名前のロボット掃除機だ。音楽なら何でもいいと勘違いしているらしい。  しかし、この世のものではないというのは、あながち間違いではない。このキラッキラ美青年――ギュスタヴは、ある日突然この家にやってきた。  テレビ画面を越えて。
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