そのおんな悪妻につき

10/10
前へ
/10ページ
次へ
           *  わたし、とうとうこの人と別れられる。不思議な感覚に包まれたまま、家に戻ると、旦那が今日も早く帰宅していた。おう、と一言告げると、飯は食ったよ、とわたしに大事なことを伝えるように言った。    その日も旦那の布団に入った。  足から入る。  「お前の足、今日はつめたいなぁ」と、うわごとのようにぼんやり言うと、すぐ寝息を立てた。寝ているにもかかわらず、わたしは心があったかいのよとだけ、矜持を持って心の中で伝えた。  ――愛を取るかお金を取るか――    次の日、私は家にいた。  10:30。あの人はもう岡山行きに乗ったかしら。  わたしは愛よりお金を取った。  あの人の決意をどぶに捨てて。  カメにエサをやる時間だ。  カメには名前を付けた。あの元愛人の名前だ。  そっくりそのままの名前を付けた。  そのカメにエサをやる。  旦那は一生分からないだろう。この名前の真意と由来を…。  「ザマーミロ」わたしの口から言葉が滑り出た。  今度、変温動物のカメのために、手袋と靴下を作ってやろう。  そう思うと、ウキウキした。  これからも、旦那には、人間ATMとしての機能を果たしてもらわなければ困る。  旦那は今会社だ、いや、女といるかもしれない。安部公房でも講釈しているのかも…。  そんなことを思って、サカナクションの「新宝島」を掛けながら、またカメにエサをやっていた。  ああ、やり過ぎたかなぁ。           (了)
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加