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わたし、とうとうこの人と別れられる。不思議な感覚に包まれたまま、家に戻ると、旦那が今日も早く帰宅していた。おう、と一言告げると、飯は食ったよ、とわたしに大事なことを伝えるように言った。
その日も旦那の布団に入った。
足から入る。
「お前の足、今日はつめたいなぁ」と、うわごとのようにぼんやり言うと、すぐ寝息を立てた。寝ているにもかかわらず、わたしは心があったかいのよとだけ、矜持を持って心の中で伝えた。
――愛を取るかお金を取るか――
次の日、私は家にいた。
10:30。あの人はもう岡山行きに乗ったかしら。
わたしは愛よりお金を取った。
あの人の決意をどぶに捨てて。
カメにエサをやる時間だ。
カメには名前を付けた。あの元愛人の名前だ。
そっくりそのままの名前を付けた。
そのカメにエサをやる。
旦那は一生分からないだろう。この名前の真意と由来を…。
「ザマーミロ」わたしの口から言葉が滑り出た。
今度、変温動物のカメのために、手袋と靴下を作ってやろう。
そう思うと、ウキウキした。
これからも、旦那には、人間ATMとしての機能を果たしてもらわなければ困る。
旦那は今会社だ、いや、女といるかもしれない。安部公房でも講釈しているのかも…。
そんなことを思って、サカナクションの「新宝島」を掛けながら、またカメにエサをやっていた。
ああ、やり過ぎたかなぁ。
(了)
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