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坂道を上りきって
はぁはぁと呼吸音をさせながら、短い黒髪を揺らす。小樽は、坂の街と言われるほどにアップダウンが激しい。
それでも、めげずに坂道を上り続ける。額から滴る汗も気にも止めず。かすかな息を吐く音だけが、耳を支配している。
「見つけた」
涼しい風が耳の横を通り抜けて、爽やかな緑の匂いを鼻に運ぶ。深呼吸して見上げた先には、水天宮。
願い事を叶えてもらうために、今日はここに来た。
小樽に来たのは、小さい時以来。僕は今日から、小樽市民になる。引っ越すのが決まった時、真っ先に頭に浮かんだのは着物姿の望ちゃん。
「参拝客?」
空想に耽っていた耳に響く、ハスキーな声に顔を上げれば不審者。じっと出方を伺いながら見つめれば、不機嫌そうにその人は声を出す。
「お供えもんくらい持ってきなさいよ。どーせ神頼みでしょ」
「な、な、なんでわかったの」
ぱちぱちと瞬きしながらその人を見つめる。長い前髪で瞳を隠していて、ぬらりと細長い背は妖怪のようだ。服装は、Tシャツにジーパンとラフな格好で、巫女さんのようには到底見えない。
僕の質問への答えは意外なほどあっさりで、それでいて、不審者感を増した。
「神様だから」
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