坂道を上りきって

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 ギョッとして後ずされば、ズイズイ追いかけてくる不審者。いや不審者じゃなくて、ちょっと頭のヤバい人かもしれない。  走り出そうと振り返った刹那、パーカーのフードが引っ張られて喉が詰まる。喉の奥から情けない声が漏れる。 「おぇっ」 「あぁ、ごめん」 「その言い方絶対思ってないだろ!」 「ごめんごめん。あれだ、お供えもん持ってきたら願い事叶えてやるよ、特別に」  その言葉を信じ切るほど、僕は子供じゃない。 「中学生なんて子供だよ」 「口に出てた?」 「ううん、神様にはなんでもお見通し」  トンっと突かれた胸が、とくんっと高鳴る。 「で、お供物持って来んの? こないの? どっち?」  妙な圧に、足が固まる。ピクッと揺れた眉毛が、自分の体じゃないみたいだ。なんとか首を縦に振れば、自称神様の口元が弧を描く。 「美味しいの待ってる、じゃあね少年」  ヒラヒラと手を振りながら、神社の中に消えていく背中を見送る。透けて見えなくなったところを見ると、神様というのもあながち嘘ではないらしい。  神様なのか、妖の類なのかは、見当がつかないけれど。  じわっと急に湧き出た汗が、背中を伝っていた。
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