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廓を出るとすぐに、何処からともなく現れた忍び衆がリセを囲んだ。
「妙な真似をすれば、廓の女は炎に巻かれることになる」
リセの背後に立つ、くノ一が静かに告げる。
その言葉に眉根を寄せるも、リセは従順に頷いた。
気配を読むに、くノ一に凄味はそう感じない。
けれど、どういう訳か忍び衆はこのくノ一を女頭に据えているようだ。
女頭が顎先を向ければ、屋根に潜んでいた者らは闇夜に消えた。
女頭と残ったのは男が二人、内の一人に見知った気配があった。
「はっ、お前……本当にあのリセか?随分と醜女に落ちたものだ」
嘲笑うように言うが、まるでその目は笑っていない。
「鉄錆か……」
鉄錆と呼ばれるこの男、齢はリセの四つ上。
昔は兄貴風を吹かせて、下の者らをよくいびっていた。
三年を経て、二回り以上に厳つい体格を成している。
腕力では到底敵わないことは一目瞭然。組み伏せられればひとたまりも無いだろう。
もう一方の知らない男は鉄錆に比べて随分と細身だ。
けれど……。
──梁にいた奴か……。
この男の方が厄介かもしれない……。
得体のしれない不気味さを匂わせている。
覆面の隙間から覗く目と目が合い、リセは悪寒を走らせた。
男は覆面の下で薄ら笑いを浮かべた。
「お頭、俺にやらせてくれ」
どうやら男の興を買ったらしい。
「駄目だ。抜け忍の始末は鉄錆に任せる」
女頭が命じた。
「何故だ?そもそも俺の獲物だ」
男は気配に険を孕んだ。
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