~生きるも死ぬも縁の内

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「火の手も上がらぬのに……町奉行が動き始めた」 こうも動きが早いのは、裏切者がいるか、あるいは――。 「付け火衆が下手を打ったな」 女頭に冷ややかな目を佐次は向けた。 付け火衆は女頭と同門にある一派だった。 「……」 女頭は佐次や鉄錆と同郷のものではなかった。 「――にしても、動きが速いな。あの女にしてやられたか」 その通りだった。 リセは奉公する小僧に小銭を掴ませ、町奉行宛に文を走らせておいたのだ。 佐次はリセの眼を思い出し、執着心を燻らせていた。 ──凡庸な町医者を装っていたが、眼光だけは隠せるものではないからな……。 「出直すしかないな」 女頭の声に佐次は思考を中断した。 「まさか、冗談だろう?同心殺しも任務の内だ。続行に決まっている」 女は抱けない、殺しはお預けでは何をしに来たのか分からないと、佐次は嫌味ったらしく首を振る。 「くくくっ、それとも、頭が直々に(はべ)ってくれる気か?」 威圧感を纏って佐次は女頭に詰め寄った。 「くノ一とは何たるか、あんたは十分に仕込まれている。そうだろう?」 くノ一――重ねれば『女』になる。 「女は大人しく男に重ねられておればいいのよ」 佐次に詰め寄られ、女頭は拳を握り込む。 ここで怯めば相手の思うツボだ。 「言葉が過ぎるぞ、佐次っ!」 鉄錆が抜け忍の始末をつけて戻ったことに、女頭は内心で胸を撫で下ろしていた。 「早かったな」 目障りだと言わんばかりに佐次は目を眇めた。 「潔く自刃したからな」 「あの女が自刃?」 佐次は違和感を覚えた。 『潔い』――その言葉に違和感はない。あの目はそういう者の眼だ。 なのに何かが違う。 違うと、佐次の第六感が告げていた。 「――確かめる」 言うや佐次は持ち場を離れた。 「お、おいっ!」 最早、鉄錆の咎める声は闇の中に霧散しただけだった。
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