二 旧知 ー山崎闇斎という人ー

1/8
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ

二 旧知 ー山崎闇斎という人ー

 下御霊社は、王朝時代、怨霊鎮めの為に行われた御霊会が起源と言われる古社である。創建当初は御所の北東、出雲路と呼ばれる地域にあった。太閤秀吉の命で、現在の東南の地に遷座した。丹塗りの鳥居も社殿もまだ新しい。 「よろしゅうお願い致します」  社務所を出て、源佐は神主の板垣民部に頭を下げた。板垣家は数代前には甲斐の国、武田家に仕えていたという。その後下御霊社の別当兼神主を世襲するようになり、今は父がその職にあるが、体調が優れないことも多いらしい。数年のうちには代替わりをするのではという話だ。  三十過ぎと思われる板垣は、眉の太い、武張った印象の男で、厳しい表情を少しも緩めずに折り目正しく一礼を返した。源佐の家は曾祖父の代に京に移り住んで以来、代々氏子としてこの神社とは関わりを持っており、源佐も幼い頃から父に連れられ通っているが、肌合いの違いに最初は戸惑ったものだ。京は公家と役人、そして商人の町だ。武士の割合は比較的少ない。  見送ってくれるつもりらしく、民部は先に立って外へ出た。その必要はないと呼び止めようとして、相手が急に立ち止まったので源佐も足を止める。  民部が見ている方向に目を向けると、見覚えのある大柄な背が、境内にある真新しい、小さな祠堂の前に立っていた。           ☆
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!