七 熾火

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七 熾火

 あれから三十年近くが過ぎた。  どんな答えを求めていたのか。励ましの言葉でも期待していたのか。下らないことを訊いてしまった、と今なお恥ずかしく思う。  ひょっとすると源佐は、ただもう少しあの男のことを知りたかっただけだったのかもしれない。あの男の話を聞き、そして自分の話も聞いて欲しいと。  道の前には皆一人。そう言い放ったあの男は、そんな甘え心を許してはくれなかった。  火のような男だった。  時に稲妻が天を裂くように、業火が罪人を灼くように。  そして時に闇夜の灯火のように、雪の朝の熾火(おきび)のように。  あの日の熱は、今も源佐の内にある。  ジジ、と室の灯火が揺れる。  ぴんと伸びた背、鋭い眼差し、切りつけるような声。  記憶はなお鮮やかだ。  道を問い、己れに問う。  山崎闇斎という男の生涯は、きっとそれに尽きた。源佐に向けた言葉の刃を、真っ直ぐに自分にも突きつけ、常に自らに問うていた。
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