小説家・天ノ川夜一

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 ティキさんのことを思い出したのは喫茶店の漫画の表紙を見たときだった。 「ここここ、これは!」  D-Grayman。アニメ化したほどの人気漫画であるが、その表紙にティキさんがいた。 「象徴体(レトロスぺスター)って言って、物語の登録人物や作者の思念が使い魔になるんだよ」 「ひゃあああああ!」 「オレが『悪役』だって驚いた?夜一ってば、オレの大ファンだったからさ~」 「びっくりさせないでください!」  ケラケラと笑う悪役に私は怒った。 「いやあ吸血鬼のエクソシストならいたけどさ、まさか吸血鬼と縁を結ぶとはね。しかも二人」 「もしかして夜一さんも重痕者?」 「お?そっちも知ってるっぽい?」 「まあ、私もそうですし……」 「……今ちょうど来てる」  そう言って指をさすと、夜一さんの他に若い女性と小さな子供がいた。 「あの女っぽいやつと子供が吸血鬼なんだよ」 「え?!」 「しかも小さいのは生まれたて。業血鬼に襲われたところを拾ったんだと」  詳細はこうだ。仕事帰りの夜一さんは小さな吸血鬼が瀕死になったところを助けるために、偶然居合わせた吸血鬼と血契を結んだらしい。その後、業血鬼は夜一さんともう一人で倒したらしいが。 「帰ってきたと思ったらびっくりだぜ。自慢の濃紺の髪が灰色になってたんだからなぁ」 「あー夜一さんも同じ喪失を……」 「もしかして、千尋ちゃんも?」 「その通りです」  血盟となった人間は体や記憶のどこかを喪失してしまうのだが、私の場合は髪だった。昔は茶髪だったんだが、血契を結んだ際に灰色になった。 「なるほどねぇ。それなら丁度いいや。暇なときにレクチャー頼むわ。まだそんなに経ってないし」 「まあフリーなら大丈夫かな?……ちなみにティキさん」 「何だ?」 「彼は何のために戦ってるんです?」  少し笑みを浮かべた後、こう言った。 「かつてなりたかった自分を超えるためだとよ」
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