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「ただいまー。」
「おかえりー、ご飯できんで。今日のご飯は栄養・ボリューム・コスパ全てにおいてもう完璧!」
1Kのアパートに帰ってくれば入ってすぐ目の前のキッチンで料理をしている女性、ちゃきちゃきとした関西弁で私より少し年上の彼女の元気に合わせられるほどの元気は仕事終わりの私にはない。
「なんや元気ないなー、今日は花の金曜日やって言うのに。」
「しょうがないでしょ、職場で律人のイチャイチャしてるの見ちゃったから疲れたの。」
「あーそれは気やられるな、だからってそれにまんまとやられてたら菜々香が損やん。そんなん気にせんとご飯食べよ、今日はもやしとおからのヘルシーハンバーグ、キャベツとわかめのサラダ、厚揚げの味噌汁、デザートにはヨーグルトのバナナ添え。こんだけのボリュームでも1人当たり300円切るんやで。」
並べられた食事の匂いに自然とよだれが口に広がった、隣でニコニコと勧めてられたら尚のことお腹が空く。料理上手で人当たりが良くてどこか憎めない所は流石沢山の男を魅了した和泉式部なだけある。
え?和泉式部なわけない?
確かに彼女の今の見た目は洋服だし顔も白塗りおかめ顔じゃないから普通の女性に見えて当然、綺麗なツヤ肌を活かした現代の化粧をしてツヤツヤの長い髪はポニーテールにしてるから私から見ても令和の時代の女性に見えるけど平安時代を生きた和泉式部に間違いない。
和泉式部との出会いは先月私が貴船神社に丑の刻参りをしたのがきっかけだった、彼氏だった律人が友人で同僚のあいに寝取られた腹いせに呪うつもりだった。
ほぼ毎日会社内でどちらかと顔を合わせるし時には今日みたいに目につく様にイチャイチャされたらたまったもんじゃない。そんな状況で日々過ごしていたら多少心は歪むのも理解してもらいたい、復讐心に駆られた私は非科学的だが行動に移せる【呪い】を選んで実際に藁人情を持って行って儀式をおこなった、少し罪悪感はあったものの行動に移せてストレス発散にもなりスッキリしていた。
だが人を呪わば穴二つとはよく言った物で丑の刻参りから帰って来た晩の事、今でも覚えてる。
玄関を開けたら真っ白い顔してなんかでかい着物来た女がいてびっくりしすぎて声も出なくてへたり込んでしまった、そしてニコッとされた時の口元のお歯黒は不気味なすぎて恐怖で涙がボロボロ出てきた。
動けず号泣する私をその原因となっている和泉式部が慰めると言う意味不明な展開になってしばらくは錯乱状態に近かったが、そこから自分が和泉式部で丑の刻参りで気になってうちに来たことなど話していくうちに私も元カレを寝取られた事や仕事の愚痴など話し出して何となく息が合ったことでおばけの和泉式部と生活する事になった。
霊のはずなのに普通に物が掴めたり勝手に私の洋服に着替えてるは勝手に化粧品使うは言いたい所はたくさんあったが、それ以上に部屋の掃除や料理洗濯などの家事をしてくれることは社会人の私にとってかなり有難かったので共同生活も今となれば普通になった。
今日も和泉式部の用意してくれたご飯を食べ終わって、和泉式部に誘われるまま一緒にお風呂に入ってる。
「ねえ何で急に一緒にお風呂入ろう何て言い出したの?」
「たまにはえぇやん、ひとつ屋根の下一緒におるんやから。」
「もしかして髪洗うの一人じゃ大変だから?」
現に今は湯船に二人並んで浸かりながら洗い場に出している和泉式部の髪にヘアパックしている所、2m以上あるこの髪を手入れするのはかなりの苦労なのは容易に考えられた。
「菜々香は勘がえぇな、こんだけ長いと手入れホンマしんどいんやから。」
「そうだろうね、でもうちに来た時からツヤツヤで綺麗な髪だったもんね。」
「昔は髪は女の美の象徴やってん、どんなにいい香の匂いしてどんなに綺麗に化粧しても髪が汚かったりうねっとったらアカンかったんや。」
「へぇー、だから和泉式部モテたんだ。」
「そんな髪が綺麗なだけの女みたい言わんといて、ちゃんとお箏もひけたし歌も読めたし香の調合やって上手やったんやで。」
「はいはいそれ何回も聞いたから。髪流すよ。」
和泉式部の自慢話を打ち切る為にパックの終わった髪を洗い流そうと湯船から立ち上がった、この話は私がフラれた不満を言うたびによく引き合いに出されて何回も聞いていた。
そんな私に和泉式部がまた余計なことを言ってきた。
「いやっ、あんたそない乳なかったん?食事節約するんもええけどもっとお肉で乳に栄養送らんと。」
「うるさいなー、人の事言える体系なの?」
「菜々香よりはおっきいで、ハリもあるし。」
色々言われてイラっとして言い返せば自慢げに和泉式部は湯船から立ち上がる、確かに私よりも胸はおっきいしなんかスタイルもいい。
そう言えば私のブラだとキツイとか言ってブラトップ買わされたっけ、背高くて顔も目パッチリで美形なのは分かってたけどなんか見せつけられるとムカつく!
しかも自信満々にこっち見てくる感じからすると和泉式部も分かってる感じ。むかついた私は仕事放棄で和泉式部の髪を流すのを辞めて風呂場を出ようとした、すかさず和泉式部が腕を掴んで止めてきたけど。
「ちょっと!まだパック流してないんやから上がらんといて。」
「自分の髪は自分でやってください。」
「さっき流すって言うたやん。」
言い争ってるのに何だか楽しそうな和泉式部、馬鹿馬鹿しくなってこっちも笑いそうになってくるけど笑ったら相手の思うツボだから何とか堪える。
こうやってムカつく所も結構ある人なのにどこか憎めないのが彼女の魅力なんだと思う、なんだかんだ楽しんでいる私自身もいるからこれからも一緒に過ごしていく事になりそう。
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