45人が本棚に入れています
本棚に追加
「さすが、一郎。そういうこっちゃ」
「そう言えば、海軍のカタブツの少佐も、変な例え話をよく言っていましたね。足りないものは埋め合うのが、本当の仲間って事を言いたいのでしょうね」
突然、辻岡が会話の色調を落として、港に停泊中の数多くの戦艦を指差すと中井に訪ねた。
「ところで、この艦隊はこの後どうするんや」
その辻岡の差した先を、遠い目で見ながら答える。
「ここトラック諸島は南方最前線として重要な拠点です。数日前より補給物資を積んだ輸送船が到着するはずなのですが――」
中井の曇った表情を察して、三宅がその先を推測した。
「着かない――」
そう答えた三宅の表情は、いつにも増して深刻だった。
「今頃、敵に沈められて魚のエサにでもなっとるんちゃうか?」
楽天的にモノを言う辻岡だったが、それとは正反対に三宅の険しい表情は変わらない。それも当然であろう。
ここに停泊中の艦艇だけでも、燃料と乗組員の数は相当量である。その補給を絶たれると言う事は、燃料や弾薬は勿論の事、食料や水さえも不足し兵員全体の士気や生命にも影響する事態になりかねない。
攻守の要であるトラックの島全体が、要塞として機能しなくなるのは帝國海軍に於いて致命的な死活問題であった。
「とりあえず今晩は遅いので、軍の施設内で簡単な小宴を用意してあります。『楪』へは明日以降ご案内させて頂きますが如何ですか?」
最初のコメントを投稿しよう!