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呂律の回らぬ何処の所属かもわからない若者が、目の前でバタっと音を立てぶっ倒れる。
「なんや、情けないのぉ」
「ベロベロですね、この男。どこの所属でしょうか?」
一升瓶を片手にテーブルを次々と移っては、若い歳下の海兵隊や整備兵であろうと酒を自ら注いで周る辻岡と日比野。それが彼流のコミュニケーションであった。
日比野は既に酩酊状態で半分寝てるようなものだったが、不思議と思い出したように起きてはご機嫌で辻岡と一緒に席を渡り歩いていた。
そんな陽気な雰囲気の中、別のテーブルでは若い数名の兵員達が真剣な面持ちで酒を酌み交わしていた。
「ワシはこの戦争が終わったら、実家に帰って家業の酒蔵を継ぐんじゃ」
「へぇ? お前んとこの家は日本酒を作っとるんか?」
「そうじゃ、広島の呉でのぉ。そりゃもう、ワシんとこの酒はぶち美味いんじゃけぇ」
「そりゃ是非とも飲んでみたいな! って事はお前、長男なのか?」
「あぁ、父は戦死してもうたけぇ……家で男はワシだけじゃ。ワシが家を継いで母さんと妹の面倒を見たるんじゃ」
青年はコップに並々入った日本酒をグイッと飲み干すと、ジッと透明なコップの底を見つめる。
実家の造る日本酒がとても懐かしく、またそちらの方が数倍も美味い……そう思った。
「そうか……俺は平和になったら何しようかな?」
伏し目がちに顔を曇らす同僚に、元気な広島弁の青年は残念そうに問う。
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