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「なんじゃ、その言い方は? やりたい事がない訳じゃなかろう」
すると背の高いもうひとりの青年が割って入った。
「戦争ばっかりしてると戦いが日常になって……やりたい事が山程ある筈なのに、何をすれば良いかわからなくなるんだ」
「あぁ、わかる……死んで行った仲間を思うと、今はそんな事考えたらいかんのかと思ったりもする」
「そうだな、明日には死ぬかも知れないのに、平和になったら何がしたいなんて――」
突然そこに肩を組んだ辻岡と日比野が、その輪の中に雪崩れ込むようドドーっと割って入ってきた。驚く兵員たちの空になったコップに次々と日本酒を注ぎながら、余った方の腕を若い兵員の肩に回す。
右側に日比野、左側に若い兵員双方の肩に手を回し、左腕をグッと引き寄せるとその兵員を覗き込むように顔を近付ける。
「なんや辛気臭い話しとんな? 死ぬ死ぬ言うて何やねん、生きたらえーんや! 生き残って何が悪いねん? 生きて帰って何がしたいか存分に悩め! その為に俺たちは生まれてきたんやろ」
辻岡の思いがけない回答に、その場にいた若い兵員達はポカンと口を開けた。
「生きる?」
誰かが繰り返した。この戦時下に於いて誰もが心から願うも、口にするのは憚るであろう台詞を平然と言ってのける辻岡。
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