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彼はみるみる顔を紅潮させ恥ずかしそう椅子にへたり込む。そんな姿を見て周りにどっと笑いが起きた。
「こうやって乳をなぁ……むしゃぶりつくように……」
調子に乗った辻岡は更に続ける。
まるで女の乳房を触るかの様に指を揉みしだき、舌を出して舐める真似をする辻岡の姿を見て、若い兵員たちの笑い声が更に大きくなる。
「生きてたいなぁ」
その笑い声を縫うように、誰かがそう口にすると自然と静寂が戻る。
すると先程まで話していた、広島弁の若い兵員が手を挙げた。
「辻岡少将、ひとつお聞きしても良いでしょうか?」
「おぅ! なんや、酒屋」
「酒屋……ですか? 聞いていらしたんですね。はい、私の実家は呉で酒蔵を営んでおります」
「そうか、呉か……それは奇遇やな、何かの縁かもわからん。で、自分名前は何て言うんや?」
「はい、重巡洋艦摩耶所属野本裕之二等水兵であります」
「そうか……酒屋。で、何が聞きたいんや?」
「た、確かに酒屋ではありますけど……」
ならば何故、名前を聞いたのだろうと不思議に思いながらも野本は続けた。
「差支えなければ辻岡少将は、只今の戦局をどのように分析しておられるのでありますか?」
ここでいつもの持論を展開するのは流石に士気に影響する。気心知れた自艦の乗組員たちとは訳が違うと感じた辻岡は珍しく少し黙り込んだ。
「俺のか? 俺の意見なんか、聞いてもしゃーないやろ?」
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