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辻岡が誤魔化し気味にそう言うと、ふてぶてしく嘲り笑う声が聞こえる。
声の方に目をやると、奥で大人しく酒を飲んでいた男が座ったままこちらを見ながら笑みを浮かべていた。
「はははっ、さすが辻岡少将殿……わきまえてらっしゃる。そんな敵も撃てない腰抜けの二等兵が気に病む戦局云々より、作戦会議に参加された際の大本営のお考えとやらをほんの少しお聞かせ願える方が、我々軍人にとって士気が上がるというもの」
「失礼な! いきなり誰だ、貴様は?」
辻岡自身は全く意に介さない様だったが、無礼とも取れる発言に堪らず日比野が割って入った。
「自分は、そこの腰抜け野本二等海兵と同じ艦である事を名乗るのも恥ずかしいが……摩耶の通信長、道端寛之(みちばたひろゆき)。階級は兵曹長であります。日比野上等兵曹……私の方が上官だ、非礼を詫びたまえ」
上半身はタンクトップ一枚であった為、階級章を確認する事が出来なかった。
伊一四一潜では航海長と副艦長を兼任する日比野であったが、軍部に於いて階級は絶対。また潜水艦乗りは軽視されがちな傾向にあったところから、悔しさを滲ませながらも日比野は即座に謝罪した。
「も、申し訳ありません」
そのやり取りに、辻岡は全く興味を示さず続ける。
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