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「教えて欲しいんやったら言うたるわ。作戦室で踏ん反り返っとる連中は、聯合艦隊がそもそもトラックを泊地にしてる事が気に入らんみたいやな。そりゃ大本営からかなり離れとるからな、本土空襲でもされたらひとたまりもない」
「では、何処が適切かと?」
道端は日本酒の入ったコップを口に運んだままの位置でその手を止める。そのまま答えを今か、今かと待つように辻岡を凝視する。
かなりの間を空けて辻岡が答えた。
「東京ちゃうか?」
「東京?」
「せや、東京や……今すぐにでも大本営は聯合艦隊を後退させ、本土の防衛ラインを固めるつもりやろ」
「トラックを棄てて、本土決戦に……」
身を乗り出しその話の先を知りたがる道端。しかし一刀両断に辻岡が遮った。
「まあ、そこまでや。これ以上は話すつもりはない、一気に酒が不味なったわ。俺はこの酒屋がおもろいから、こいつと場所変えて飲むわ。えぇから着いて来い若いもん」
そう言って手招きすると日比野と野本、それに数名の兵員が着いて来た。
席を移りながら辻岡は、誰にも気付かれぬように舌をペロッと出してみせた。
(なんやあの面倒臭い奴は……腹立つから嘘っ八なこと教えたったわ。どこの誰が聯合艦隊まるまる連れて本土決戦すんねん、アホ)
日比野が振り向くと、既にそこには道端の姿は無かった。
少し離れた場所に席を変え、座るや否や余程悔しかったのだろう。
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