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「酒屋、お前の気持ちよぉわかるで。なんも憎い訳やあらへん、きっと向こうも同じこと悩みながら戦っとるわ。でもな、俺以外の上官に今の話は絶対言うたらあかん。また精神叩き直したる言うて、今度は一生足腰立たんくらいボコボコにされてまうで」
そう言って、今度は野本の頭をポンと軽く叩いた。
「はい。ほんますみません……ほんますみません」
「大丈夫や、女でも抱いたらスッキリするわ」
「そんな訳ないでしょ……みんな、艦長と一緒にしないであげて下さいよ」
日比野が機転を利かせその場を和ませた。
周りの席で飲んでいた他の兵員も異様な雰囲気に気付いており、何事かと心配している者たちと同数、好奇の対象となっていた。
「堪忍してつかぁさい。ちょっと便所で頭冷やしてきます」
ペコペコ頭を何度も下げ、野本はその場から逃げるように走って行った。
「おい、野本! そっち便所と違うぞ」
同期の兵員が声をかけるが、走って行く野本の耳には届いてないようだ。
「あいつは戦争に向いとらん。そんな奴が何人もおって、自分が自分を殺しながら戦っとるんやろな」
いつにもない真顔で、辻岡は酒の入ったコップを口に運んだ。
「おい、あいつ帰って来んけど、大丈夫か?」
しばらく残った兵員達と和気あいあい酒を酌み交わしていると……。
「キャーーーーー! 助けてーーーーーっ!」
外から女性の悲鳴が聞こえた!
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