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「今日は母の日のプレゼントを作りましょう」
先生の声に園児たちは元気よく「はーい」と返事する。テーブルの上には画用紙と水性ペンが置かれている。
みんなが勢いよく絵を描いていく中で、××はペンを持ったまま微動だにしない。××はペンをギュッと握りしめ俯いた。隣の女の子が××の様子に気付き、絵を描く手を止める。
「××ちゃん、どうしたの? なんで描かないの?」
「…………」
「××ちゃん?」
女の子は問い続けるが、××は黙り込んだままだった。二人の様子を見た男の子は思わず声を上げて言った。
「知らねーの? ××のウチってお母さんいないんだよー」
男の子の声で周りの園児たちも反応し××を囃し立てる。「なんでお母さんいないの?」「お母さんがいないなんて変なのー」。ただならぬ状況を察した先生が慌てて止めに入ってくる。
事が収まるまで××は、ずっと声を上げて泣くことしかできなかった。その日、××は父に言った。
「どうして私には、お母さんがいないの? 他の子みたいにお母さんが欲しい」と。けれども、父はただ「ごめんね」と申し訳なさそうに繰り返すばかりだった。
そのときから××は母の日が嫌いになった。
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