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夕暮れの訪問者
それはいささか奇妙な縁だった。
夏の終わり――夕暮れ時に家の門に立っていた。男は中背の狐面をつけた男。学生に見えるものの、ぱっと見の感想なのであまり当てにはならない。
こんな知り合いはいない。帰ってもらおうと何か言い訳――言葉を探していると。
狐面の男が何かを差し出した。
なんだろう? と思い、覗き込んでみる。
「…………ビー玉」
紺碧色の丸い硝子玉。狐面の男は、ぼそっと言った。
「俺の宝物、やる。一晩でいい、泊めてほしい」
「…………冗談ですよね?」
「冗談で宝物をやるはずないだろう」
「それもそうですね、はは」
これは困った。まさか本気だったとは……なんて頭を抱えたくなるが、目の前のあやしい男はこちらの答えをじっと待っている。普通なら追い払うなり警察に通報するものなのだろうが、どういうわけか頷いてしまった。
「ありがとう、感謝する。俺は、キリエだよろしく」
狐面を外さないまま、伸ばされた手を取る。
まるで氷のように冷たい手。
――あなたは誰ですか、なんて言葉をのみこむ。だって、そんなことを言えば最後――氷のように溶けてなくなってしまうかもしれない。
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