【第零部 序章】 第一話 「お客様には、死んでいただきます」

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「はい、表で最新機種入荷って書いてあったので……」 「これが、その機種のパンフレットでございます」  優姫は先ほど俺に差し出したパンフを、すっと俺の方に差し出した。 【飛躍的かつ圧倒的な進化を遂げた、次・次・次世代機!】 【世界中外どこでも圏外なし!】 【イニシャルコスト・ランニングコストともに、お金的にはタダ!】  刺激的な宣伝文句が踊っているそのパンフレットの最後の文句に俺はひっかかった。 「タダ!? こんな高価そうな最新機種が、タダなんですか?」  いやいやそんなうまい話なんかあるはずがない。俺はパンフをじっくりと見て、「タダ」の後に小さく「同然」と書いてあったり、別の有料サービスに加入するとかの条件があったりしないか確認した。が、どう見てもそんな記載はない。 「大丈夫ですよ。本当にタダです。お金的には」  優姫がにっこり微笑んだ。  お金的には? どういう意味だろう?  俺はその疑問を素直に口に出した。 「お金はいただきませんが、もちろん契約は結んでいただく事になります。  回線も、今まで使っていたものから弊社の回線に乗り換えていただきますし、まぁ、お客様の人生をいただく、と言ってもいいかもしれません」  なるほど。一生他社に乗り換えてはいけない、解約してもいけない、ってわけか。このあたりで一気に話が胡散臭くなってきたが、優姫の顔を見ていると、どうしても彼女が不愉快になるような返事ができない。 「一生物のスマホになると言う事ですね……。  でもいくら時代を先取りした機種だとしても、この辺のテクノロジーは日進月歩、いや分進秒歩と言われていますからねぇ……」  と、少し消極的な発言をするのが関の山だ。 「ご安心下さい。無償アップグレードは随時行われます。  OSをはじめ、ハードウェアについても永久無償アップグレード対象ですので、今後一生、常に最新機種をお使いいただけます」  え、マジか。大丈夫なのかこの会社。 「私、お客様が外を通られた時から、この方ならこの機種とこのサービスの価値をご理解いただけるって信じてました。だから、お客様が入ってきてくださった時、とっても嬉しかったんです」  優姫は胸の前で手を合わせて少し目を潤ませた。腕で胸がむにゅっとひしゃげて胸元が少し開き、また、谷間がさらに強調された。柔らかくて張りがありそうな、みごt……。 「では、前のスマホからデータを移しますので、お預かりいたします。その間にこちらにサインをお願いします」  優姫は俺のスマホを取り上げ、書類を一枚、俺に渡した。
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