【新姥捨て山】

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  僕「できないよ。(おんな)の君に、あんな高いところ昇らせることなんて」 妻「それは(うそ)。私に頼めないのは、アンタが婿養子(むこようし)だからでしょ。私がここにいるのも、あの忌々(いまいま)しいアンタの母親の遺品(いひん)をわざわざ整理して、家を()(ぱら)うため」 僕「………」 妻「まだわかんないの?あなたのためなのよ?」 僕「……」 妻「(ちょう)高齢者(こうれいしゃ)救済法(きゅうさいほう)制定(せいてい)されたのは、時代がそううさせたの」 僕「そう、だね」 やりきれなさそうな僕に、君は一瞥(いちべつ)()()ちをかける。 妻「老害(ろうがい)が生きててなんの意味があるっていうのさ。運転、痴呆(ちほう)、万引き、マナー、騒音、ご近所トラブル、殺人…… 世代別で見ても重罪(じゅうざい)を犯すのが多いのは高齢者(こうれいしゃ)よ」 僕も、同意見(どういけん)だ。 妻「老人どもが今後人様に迷惑(めいわく)かけないよう救済する。こうして金を(むさぼ)ることしかできない老害どもを一掃(いっそう)して、社会福祉の圧迫(あっぱく)を改善するのが国の方針。国民はそれを大多数支持した。そんな国にしたのが、当人ら高齢者だとも知らずにね」 ───自分に都合いい国にしようとするから、ツケが回ってきたのよ。 しかし、僕の母親(ははおや)は決して…。 妻は、僕の肩にそっと手を()えた。 妻「よぉく考えて。あなたを(まも)るためなの」 僕「僕を───護る」  
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