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君は、自責を感じたのか、とても寂しげな目をした。
君「あなた、苦しんでいた。助けたかったの。殺しちゃいけない人だと思えば思うほど押し潰されそうになるあなたを。あの呪われた当家の”お皿”からも…」
僕「どれほどあの皿が憎かったか。当家伝来のものだか何だか知らないけど。それでも、母だけは、愛せた」
君「───」
僕「いざというときに限って、僕を頼るんだ。卑怯だろ?勝手気ままで、会社が倒産したら僕を置き去りにして蒸発。戻ってくれば僕の家で勝手し放題。すべてあの皿のお陰だなんだと言いやがる」
君「お皿は関係ない。あなたの技量があの屋敷を建てたのにね」
僕「拠にしてたのは間違いないけどね。もしあの皿がなかったら、母を思い出しながら血のにじむように働く執念も湧かずに野垂れ死にしてたと思うし」
君「あのお皿の呪いに縛られることを生きがいに選んだのね」
僕「でも、なんでかな───。頼られると、嬉しくなるんだ。助けたくなるんだ。変だろ?僕」
君「そんことない。優しいんだね」
僕「……」
君「ひとつ聞いていい?」
僕「なに?」
君「ホントは聞かないほうがいいかもだけど、あなたにとって1番目は、誰?」
僕はすっと顔だけ横に向け、僕の腰に回す君の左手にそっと触れた。冷たい左手の、欠けた小指《ヽヽヽヽヽ》をつうと指先でなぞり、答える。
僕「君だよ、菊」
君は屈託のない笑顔で、嬉しい青山くん、と言った。
僕は心の中で呟く。
───もう、そろそろいいよな。人を好きになっても。
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