【新番町皿屋敷】

3/4
前へ
/17ページ
次へ
    君は、自責(じせき)を感じたのか、とても(さみ)しげな目をした。 君「あなた、苦しんでいた。助けたかったの。殺しちゃいけない人だと思えば思うほど押し(つぶ)されそうになるあなたを。あの(のろ)われた当家(とうけ)の”お(さら)”からも…」 僕「どれほどあの皿が憎かったか。当家(とうけ)伝来(でんらい)のものだか何だか知らないけど。それでも、母だけは、愛せた」 君「───」 僕「いざというときに限って、僕を頼るんだ。卑怯(ひきょう)だろ?勝手気ままで、会社が倒産(とうさん)したら僕を置き去りにして蒸発(じょうはつ)。戻ってくれば僕の家で勝手し放題。すべてあの皿のお陰だなんだと言いやがる」 君「お皿は関係ない。あなたの技量(ぎりょう)があの屋敷(やしき)を建てたのにね」 僕「(よりどころ)にしてたのは間違いないけどね。もしあの皿がなかったら、母を思い出しながら血のにじむように働く執念(しゅうねん)も湧かずに野垂(のた)()にしてたと思うし」 君「あのお皿の呪いに縛られることを生きがいに選んだのね」 僕「でも、なんでかな───。頼られると、嬉しくなるんだ。助けたくなるんだ。変だろ?僕」 君「そんことない。優しいんだね」 僕「……」 君「ひとつ聞いていい?」 僕「なに?」 君「ホントは聞かないほうがいいかもだけど、あなたにとって1番目は、誰?」 僕はすっと顔だけ横に向け、僕の腰に回す君の左手にそっと触れた。冷たい左手(ひだりて)の、()けた小指(こゆび)《ヽヽヽヽヽ》をつうと指先でなぞり、答える。 僕「君だよ、(きく)」 君は屈託(くったく)のない笑顔で、嬉しい青山(あおやま)くん、と言った。 僕は心の中で(つぶやく)く。 ───もう、そろそろいいよな。人を好きになっても。  
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加