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「では。赤羽先生、ひと言ご挨拶をお願いします」 教頭先生にマイクを渡されて、あたしは一礼した。 「えー。はじめまして、赤羽弥生です。今日からこのY高校のスクールカウンセラーとして勤めさせていただくことになりました。みなさん、気軽に相談室に遊びに来て下さい。どんな些細なことでも、みなさんと一緒に話し合って考えて、そして楽しい学校生活が送れるよう少しでもみなさんの心に寄り添えたらいいなぁと思っています。どうぞよろしくお願いします」 ペコ。 笑顔でお辞儀。 だけど、その表向きとは裏腹にあたしの心臓はバックンバックン。 緊張の絶頂だった。 パチ、パチ、パチ。 まばらにわずかに起こる拍手。 あたしを含め、この春から勤務の新任教師達のことも、大した興味がないといった様子の生徒達。 さしづめ『朝礼なんてだるいー』と言ったとこだろうか。 でも……あたしが高校生の時もそうだった。 体育館での全校朝礼なんかの時も、隣や後ろの子達とペチャクチャおしゃべりしてたっけ。 なんだか、自分の頃と変わらぬ風景を見て、あたしはちょっとおかしくなってそしてちょっとだけ緊張がほぐれた。 表向きでは、この生徒達がどんな子達かなんて全くわからない。 内気な子、明るい子、勉強の好きな子、嫌いな子、友達がたくさんいる子、あんまりいない子。 とにかく、いろいろな子達がいるということだけは確かだ。 でも、きっと中にはあたしと仲良くなれるような生徒もいるに違いない。 あたしは、なんとなくそんな予感がしていた。 あたしの『なんとなく』はかなりの割合で当たる。 そして、その予感どおり真っ先に、元気よく相談室のドアを開けた生徒がいた。 「ちわーっす!」 短めのスカートにちょっと茶色がかったショートヘアの髪、くりくりっとした大きな目のチャーミングな女の子と、その子の親友と思われる同じく短めのスカートにふんわりカールがかかったミィディアムヘアで、同じような雰囲気の可愛らしい女の子2人。 見るからに明るそうで、活発そうな雰囲気。 彼女のくったくのない笑顔に、あたしも自然と笑みがこぼれる。 「先生、新しいスクールカウンセラーなんやて?」 関西弁だ。 「うん。なにかあったらいつでもここに来て。……って言っても、元気そうでその必要もないかもしれないけど」 あたしは、関西弁でしゃべるショートの女の子に笑いかけた。 「うちかて悩みくらいあるでー。って言っても大した悩みじゃあらへんけどな」 女の子2人がカラカラ笑ってる。 明るくて元気で人懐っこくて、とってもいい子そうだ。 「先生、うちシウっていうねん。シュウでええよ。うちら2年C組」 「あたしはリナ。ちなみに関西弁しゃべるのはシュウだけだから」 そんな2人にあたしも自己紹介した。 「あたしは、赤羽弥生ーーーって、さっき朝礼で挨拶したか。よろしくね、シュウちゃん、リナちゃん」 「先生カワイイな。彼氏おるん?」 突然のシュウちゃんの質問に、あたしは思わず赤くなってしまった。 「えっ?今はいないけど……」 すると2人が笑った。 「カワイイー。赤くなってるー。ね、先生のこと〝弥生ちゃん〟って呼んでいい?」 「おお、そうしよ。うちら先生のこと〝弥生ちゃん〟て呼ぶわ」 リナちゃんの提案に、シュウちゃんも嬉しそうにうなずいた。 「うん、そうして。なんか〝先生〟って呼ばれても、まだいまいちピンとこなくてね。その方が助かる」 あたしは、赴任早々この元気でカワイらしい生徒2人が相談室に訪れてきてくれて、とても嬉しかった。 なんだか彼女達とは仲良くなれそうだ。 2人のおかげで、あたしの中の緊張と不安がだいぶ和らいだ。 「あたし、この学校のこと全然わからないから、いろいろ教えてね」 「うん。わかった。あ、チャイム鳴ったわ。ほな行くわ。がんばってな、弥生ちゃん。みんな元気そうに見えて、けっこう病んでるでー」 そう言い残して、彼女達は相談室を出て行った。
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