第一章 自殺同盟

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隙間風が室内に入って身体を震わせた。月明かりは甘栗の顔を照らし、目が輝いていた。風で漂う塵やホコリは舞い上がり、新の鼻を刺激する。重い雰囲気に押し潰されそうなそんな感じだ。その雰囲気を紛らわす為に新の取る行動は笑うしか出来なかった。 「はは、僕が自殺しようとしていた? 何を言っているんだ。君じゃあるまいし、そんなバカなことを考えるわけないだろう。面白いことを言うなぁ。何を根拠に言っているやら」 「その不自然な笑い方がその証拠です。今まで心から笑ったことがないんですね」  小馬鹿にするように甘栗は言った。新は完全に見下されている。 「僕は死ぬつもりはない。これからも当たり前のように生きていくつもりだ」 「そうですか。あくまでシラを切るつもりですか。では聞き方を変えます。なんであの時間にあの場所にいたんですか? 周りには何もない田んぼ道で付近には行くようなところはありませんよ? 違うと言うのであれば何をしていたか言えますよね?」 「それは……散歩だ」 「散歩? 家が周りにないのにどこから来たと言うんですか。あの時間に一人で歩いているだけでも不審者に間違えられます。自殺以外で別の目的があるならちゃんと説明して下さい。さぁ、どうなんです?」  ボロクソに否定される。甘栗には全てお見通しのようだった。下手な言い訳は通用しない。だからここは正直になることが先決だと新は判断する。 「あぁ、甘栗の言う通り、僕は自殺を考えていたが、どういう訳か自殺するつもりだった君を助けてしまった。そして現状、こうして廃病院に二人で議論しているこの状況は意味がわからない」と開き直る。 「私もどうしてあなたとここにいるのか分かりません」 「君が連れて来たんだろ」 「そうですけど、出会いはこんな形ですけど、これも何かの縁じゃありませんか。仲良くしましょう」 「仲良くするような間柄でもないだろう」 「話してくれませんか? 新道さんの死にたい理由」 「どうして君に話す必要がある」 「興味があるんです。それに誰かに話すことで気が変わるかもしれませんよ。いいじゃないですか。知っている人に話すより見ず知らずの私に話した方が気を使う必要ありませんし」 「バカバカしい。自殺したいなんてどれも似たような理由だろう。虐めや人生の躓きで考えるものだ。君もそうだろう」 「少なくとも私はそうじゃありませんよ。虐められたことなんてありませんし、人生は成功続きで進んでいます。と言うことは、新道さんは失敗続きで死にたいと? その経緯を教えてくださいよ」  甘栗は足を組み替えながら言う。心に余裕のある者の発言だ。まるで悪いことをした生徒に事情を聞く教師のような振る舞いだ。どちらが大人でどちらが子供か分からない。 新からしたら年下に自分の弱いところを見せるようで癇に障るだろう。 「甘栗、僕に関わらない方がいい。死ぬぞ?」 「脅しのつもりですか? 全然脅しになっていませんけど」 「いや、本気だ。僕の周りはいつも誰か死ぬんだ。認めたくないが、僕はそういう体質があるらしい」 「どういうことですか?」  新は話した。これまでの死体を見た数とその経緯。それに【死神の子】と言われてきた人生を全て話した。それなのに甘栗は恐れることなく顔がニヤけている。以前、手足を組んだままだ。恐れる様子はまるでない。それよりも甘栗は感心していた。 「なるほど。素晴らしいですね。それが本当だとしたら想像以上です」 「事実だ。だからもう僕に関わるな」 「冗談言わないで下さいよ。私は死にたいんです。つまり、あなたと行動を共にしたらいつか死ぬってことでしょ?」 「自分の望む死に方にならないぞ。僕は死に際を見ることは出来ても死に方はコントロールできなんだからな」 「構いません。自分で死ぬのが先か、新道さんに呪い殺されるのが先か試してみましょうか」 「何をバカなことを言っている」 「いいんです。それで? 新道さんは自分の呪い体質が嫌で死にたいと考えているんですか?」 「そうだ。もうこれ以上、見たくもない死体を見るのは沢山だ。その結果、失敗続きの人生もウンザリだ。だから僕は死にたい。この世から消えたい」  新の訴えに甘栗は腰を上げた。そして新の元へ歩み寄る。 「私はいつ死んでも構いません。新道さんも死にたいなら一つ、同盟を組みませんか?」
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