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「あ、0時過ぎましたね」
壁掛け時計に示された針は天辺を差していた。日付が変わった瞬間である。
当初、新が予定していた誕生日の自殺は未遂で終わりを遂げた。
「どうしますか? 自殺の日は?」
「また改めるよ」
「死にたい理由は聞けましたが、誕生日の日に死ぬ理由はまだ聞けていません。何か深い理由があったんですか?」
「理由か……。特にないよ。キリのいい数字だと言うこと、何もやることが無くなったってだけさ」
「何もやることが無い? 仕事をクビにでもなりましたか」
「まぁ、そんなところだ」
「なるほど。それは死神の子と言う体質とは関係なしに死にたくなりますね。良い歳した無職なんて格好が悪いですし、ダッサイですよね」
と、甘栗は上から目線で言い放つ。自分より立場が下と判断したらとことん見下す性格なのだろう。甘栗の前では弱いところを出すのは選ぶべきである。
口が悪い、態度が悪い、性格が悪いと負の三大要素が揃っている。それが甘栗紅葉という少女なのだ。
「今、私のことを否定的な目で考えました?」と、相手の心情も読み取るおまけ付きだ。
「いえ、別に」というが「あ、今、目逸らしましたね」と逃すことなかった。
「ともあれ、自殺の方法もやり方も何も決まっていません。じっくり考えましょう」
「……そうだな」
「浮かない顔してどうしたんですか? やはり、今日……いや、昨日死ねなかったのを悔やんでいるんですか?」
「いや、過ぎたことを振り返っても意味がないよ。前だけを見るんだ」
「まるでこれから生きていくような言い方ですね。間違っても生きるなんて言わないでくださいよ」
そうだ。新はこれから死ぬことを考えなくてはならない。それだけは間違ってはいけない。
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