第一章 自殺同盟

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「新……助けて。助けてよ」  また、新を呼ぶあの光景が蘇る。  小学生の頃、友人たち数人と川で遊んでいた時の話だ。無邪気に遊んでいたのも束の間、一人の友人が川に流されてしまった。当時、その場には新しかおらず友人は新に助けを求めていた。  だが、新は呆然と友人が溺れているのを眺めているだけだった。足が動かなかった。いや、動けなかった。恐怖で支配されていたのだ。最終的に新は友人を見捨てた。自己責任だ。あっちに行ってくれ。何もしてあげられない。何もしたくない。だから、構わないでくれ。  結果、その友人は行方不明になり、後日遺体で発見された。見捨てた瞬間が、その友人の死だったことは一生忘れることはないだろう。  ひとでなしとも言われるが、多くの人はもし同じ場面に直面したら何もできないと思う。助けることは正義。見捨てることは勇気ともいう。  勿論、新は後悔している。悔やんでも悔やみきれないくらいに。  そこからだ。いくとなく死体を目の当たりにすることになったのは。  最初は偶然でもその数が毎回のように繰り返されれば周りの目も変わる。  いつの日か、新はあだ名を付けられた。【死神の子】そう言われるようになった。  あだ名の由来は新の周りで人が死んでいくことからそう言われるようになった。周りから避けられることは勿論、虐めや厄介者扱いされる。結果、新の周りには誰もいない。あるのは冷たい視線だけ。学生時代はとにかくやり過ごすことだけを考え、成人した後もそれとなく働くがそれでも人は死んでいくのだ。新は完全に呪われている。存在しちゃいけない存在だ。  だから、もうどうでもいい。  それに新のこれまでの人生は良かったとは言い難いものばかりであった。  学生時代から周囲の人と馴染めず一人でいることが多かった新は友達を作ることなく高校卒業と同時に家の近くの自動車製品製造工場に就職した。  働く居場所としては最適であったが、違った。つい最近のことだ。  プレス機を操作していた時だ。 「うわぁ!」  突如、プレス機の裏側から悲痛の叫び声が聞こえ、新は慌てて緊急停止ボタンを押した。しかし、遅かった。従業員の一人が機械に挟まれて亡くなっていたのだ。  また自分のせいで人が死んでしまった。動いている機械に不用意に近づいた当人が悪かったとはいえ、新は責任を感じた。例え、事故だったとしても耐えられない気持ちが強かった。結果、新は長年勤めた職場に退職届を出した。 新が職場を退職して三ヶ月。ニート生活を得てある決断をした。 それは自殺だ。自分自身が呪われていると本気で思っていた。これ以上、誰も死なせたくない。自分がこの世にいるから誰かが犠牲になってしまうんだ。 もう、この世に未練がなくなったのだ。足掻くことも出来ず諦めグセのある新は失うものは何もない。死こそが自分からの解放だと考えていた。
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