第一章 自殺同盟

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陽が沈み、辺りが夕焼けになり始めた頃だった。 新は一人、田んぼ道を歩いていた。人通りはほとんどなく周囲は新以外いなかった。車が通り過ぎるのも珍しいくらいだ。街灯もなく、薄暗い道のりをただ一直線に向かって歩く。歩き始めてどれほどの時間が経っただろうか。時間の感覚がまるでない。足はパンパンで一歩進むのがやっとだ。自然と汗が吹き出し、手で拭う。息も荒くなっており、      ハァハァと自分の声が耳を刺激する。 もう、限界だ。 そう思うのは新のこれまでの人生を振り返った結果だった。思い返せば新の人生は何も良いことはなかった。 周りの人が死ぬことから【死神の子】と呼ばれ、煙たがれる存在だ。 原因は不明だが、おそらく何かの体質みたいなものだろう。その結果、新は友人も恋人も作らず一人で過ごしてきた。一人で過ごすとは語弊であるかもしれない。当然、どこかで誰かに頼ることはある。結果、新に関わった人は死んでいく。 そのことから新が生き続けることによって誰かが死ぬことになる。それがもう耐えられないのだ。新が生きていても何の意味を持たない。生きるだけ疲れた。新のせいで誰かが死ぬくらいなら死んだ方がマシだ。だから新は二十五歳の誕生日を迎える今日を死ぬ日に選んだ。  新が死んだところで誰も悲しまない。誰の記憶にも残らない。むしろ、新が死ぬことで生き残れる人がいるなら喜ばしいことだろう。もう、何もかもどうでもいい。  重い足取りで辿り着いたのは踏切だ。その距離は五十メートルほど。もう少しの距離に重い足にムチを打つ。動けと念じながら一歩を確実に進める。 あの遮断機の中を潜り、線路の前で立ち尽くせば一瞬で死ねる。何とも楽な死に方だろうか。少し痛いかもしれないが、痛いのなんて一瞬だ。すぐに忘れる。  すると、カンカンカンと遮断機は電車が来ることを知らせる鐘が鳴り出した。踏切は降りて通行の侵入を防いだ。チャンスだと思い、新は踏切に飛び込もうとする。だが、踏切に近づくにつれてある影が新の進む足を拒んだ。 ――誰かいる。女子高生だ。制服を着ているから間違いない。その女子高生は踏切が降りたにも関わらず、線路内から立退く様子がない。むしろ電車を受け止める構えで棒立ちしていた。電車は徐々に女子高生に近づいている。 それは死を連想させた。新の死神体質は自殺の瞬間にも訪れた。どうして新の邪魔をするのか。どうしてこんなにも苦しい思いを背負わなければならないのか。 このまま女子高生が電車に轢かれるのを眺めることも出来た。でも、見たくないという思いが新の中で溢れた。選択の余地はなかった。 「助けなきゃ」という思いしかなかった。もう、新の目の前で誰かが死ぬ姿は見たくない。だから叫んでいた。 「危ない!」と新は手を伸ばす。  そして、足が勝手に動き、線路内に侵入して女子高生にタックルする形で退けた。反対側の通路に強く倒れ込んだ瞬間に電車は新たちの真横を過ぎ去った。  間一髪で女子高生を助け出したのだ。
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