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どういう訳か自殺するつもりが人を助ける形になってしまい、自分の置かれた状況を必死で推理する。他人の死を見届けることがあっても今回助けたのは初めてのこと。新にとって大きなきっかけを作り出した。
感情が溢れ出し、荒い呼吸を吐き出す。心臓が激しく動き、生きていることを実感する。まだ死んでいない。それだけが救いだった。
「痛った!」
女子高生は足を抑えながら痛みを訴える。膝を擦りむいたようだ。怪我を負わせてしまったが、女子高生は無事のようだ。新も地面についた時に手の甲と肘を強く打っていたが、軽い打撲で済んだ。女子高生に覆いかぶさるような形で着地した結果だ。
だが、生きている。ひとまず死体を見ることなく済んだのは不幸中の幸いだ。
それなのに。
「あなた、どういうつもり?」
女子高生は助けられたにも関わらず、新に対して怒りをぶつける。まるで意味が分からなかった。そこは「ありがとう」じゃないのか。納得いかず、新は反論する。
「君こそどういうつもりだ。危ないだろ。死んだらどうするんだ」
「余計なお世話よ! 私は自殺するつもりだったの。それなのにどうして助けたりしたの? 信じられない」
まさか、この女子高生も新と同じように自殺願望者だった。良いことをしたつもりが悪いことをしてしまったらしい。良かれと思ってした行動が余計なお世話だ。この場合、手出ししたことを後悔するしかない。が、結果は変えられない。苦しい状況に置かれた新は困惑する。
「はぁ、もう自殺する気分が失せたわ。ちょっと、あんた責任取りなさいよ!」
女子高生の怒りは収まらなかった。火に油を注いだように。こういう時はどうすればいいのか分からない。他人が死にそうになって生きているのは初めてのこと。普段なら死ぬところだが、新が余計なことをしたばかりに生かしてしまった。
楽に死ぬつもりだった新は面倒なことに巻き込まれてしまった。死ぬ時にも限って不幸だった。結局は見なかったことにするのが正解だったのだろうか。二十五歳にもなって女子高生に怒られるなんて正社員時代の失敗を思い返す。いい歳をした成人男性が情けない。後悔するも時間は戻らない。いや、それはそれで自殺を見届けるのもどうかと思う。どのみち正解の選択肢はなかったのかもしれない。それがまた新の運命だ。
「ねぇ。これ、あなたの?」
女子高生は革製の折り畳み財布を見せながら言う。まるで泥棒猫のような振る舞いでヒラヒラと見せつける。焦った新はポケットの中を確認するが財布はなかった。間違いない。女子高生の手に持っているのは新の財布だ。助けたあの一瞬で財布を抜き取られたとでも言うのか。油断も隙も無い。
いつもの癖で死ぬつもりなのに財布を持って来てしまったのが裏目に出たらしい。完全に墓穴を掘った。死んだ後にご丁寧に身分を教えてどうする。女子高生は口元が笑いながら新の財布を確認する。今日、いくら財布に入れてきたか覚えていない。まさか、新は女子高生にカツアゲされる日が来るとは思わなかっただろう。先程から新の過去のトラウマを思い出させる行動を取るのは意図的なのか、偶然なのか新は想像しても分からない。だが、一つだけ言えることがある。この女子高生は新に危害を加える存在になり得ると言うことだ。
「しんどう……しん?」
「違う。僕の名前は新道新。読み方はしんどうあらた」
「新新なんて変な名前ね。あなたの親、センス無いんじゃないの?」
女子高生は新の財布から自動車運転免許証を抜き取って個人情報を見る。名前を見られたら逃げるに逃げられない。だが、名前について、新はこれだけは反論したい。
「親のせいじゃない。僕は元々、『成田』という苗字だったけど、再婚の関係で『新道』になっただけだ」
「ふーん。あんた再婚家庭なんだ。大変ね。でもどのみち変な名前になったのは親のせいだということは変わらないけど」
「分かったら財布を返してくれ」
「返して欲しければ責任取ってくれるかな」
「責任って何のことだよ」
「私の自殺を邪魔したんだからさ。責任、取りなさいよ」
「僕にどうしろというんだ」
「一緒に考えてよ。私にとって相応わしい死に方を」
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