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「自殺を邪魔したなんて言い掛かりだ。普通、あんなの目撃したら止めるだろ。大体、何で死にたいんだ。君、まだ高校生だろ。死ぬのは早過ぎる。もう少し人生を楽しめよ」
と、新は偉そうなことを言うが、自殺しようとしていた本人が言える立場ではない。
まるで自分に言っているようで内心心苦しかった。
「人生を楽しめ……か。もういいのよ。どうせ、やりたいことなんてないし。この先、生きていても適当に生きるだけだし、皺くちゃのババアになるくらいだったらこの貴重な女子高生のうちに死んだ方が賢いと思ったの」
女子高生は少しふてくされたように言う。何か訳ありなのは想像つくが、新と同じ境遇であると考えるとそれ以上は聞けなかった。
「そんなに死にないならもう一度ここで電車が来るのを待っていればいいだろう。僕はもう止めないから好きにしてくれ」
「だから、あんたが止めたせいで死ぬ気が失せたって言っているのよ」
「じゃ、死ななければいいじゃないか」
「今、死ぬ気が失せただけであって死にたいことには変わりないのよ」
訳が分からなかった。新にとって女って面倒臭いと激しく思った瞬間である。
自然と新は溜息を吐いていた。それは吐きたくなる。面倒毎に巻き込まれてしまえば誰だってそうなる。今、死ぬとか生きるとか言い合いをすることは得策ではないと思った新は話題を変えた。
「君、名前は? 僕は明かしたんだ。名前くらい教えてくれてもいいだろう」
明かしたと言うより無理やり見られたと言うのが正しいがそこはどうでもいい。
「私の名前は甘栗紅葉。見ての通り、ただの高校二年生だよ」
彼女はあっさり名前を明かした。高二というと十六歳か十七歳くらいだろう。一番楽しいはずの年頃なのに死ぬのは勿体無い。当時の新は居場所がなく辛い時期だったが死にたいとまでは考えなかった。ただ、やり過ごしていければいいと楽しむ余裕はなかった。
見るからに整った顔立ちに黒髪のショートが際立っていた。本当にどこでもいるようなただの女子高生だ。自殺を考えているとは到底思えない。あくまで見た限りの話である。
「何よ。ジロジロ見て」
「別にジロジロ見てないし」
「分かった。どうせ死ぬなら一回ヤラせろとでも思っているんだ。変態」
「思ってないし。何だよ、お前」
「お前じゃありません。私には甘栗紅葉って名前があります」
「分かったよ。甘栗。いいから財布返せ」
「言ったでしょ。返して欲しければ責任取って」
「甘栗。スカートが捲れてパンツ見えているぞ」
「え? 嘘」
新の嘘だ。それに油断した甘栗の手から新は強引に財布を奪い返した。
「引っかかった」
「嘘付いたな! 大人のくせに卑怯だよ」
「何とでも言え。じゃ、達者でな」
新は甘栗に背を向けて立ち去ろうとした時である。
甘栗は両手で新の右手を掴んだ。
「逃げるな! 自殺の邪魔をした罪は重いわよ。ちょっと付き合いなさいよ」
甘栗の必死の抵抗に新は観念した。一度関わってしまったことを後悔してももう遅い。
見た目は普通だが、口は悪いようだ。年上に対する口の利き方がなっていない。新は注意しようとも思ったが、そんなことを言う権利はない。親の顔が見たいとはこういうことだろう。
「付き合うってどこへ?」
「一緒に来て。ここにいても不審だし。それに手当てしないとね」
甘栗は自分の膝と新の肘を見た。痛々しく赤い血が吹き出ている。
「どこにいくんだ?」
「良いところ知っているの。行きましょう。新道新さん」
新は甘栗紅葉という女子高生に連れられてあるところへ向かう。甘栗のその足取りはスキップを踏んでいた。何を浮かれているのかさっぱり分からない。自殺というのは嘘なんじゃないかとも思ってしまう行動だ。一体どこに向かうのか、新には見当も付かなかった。
「こっちです」
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