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五日目、放課後デート
そしてまた次の日。私もどうにか回復し、晴れて二人で登校することができた。
水野くんは再び高校生活を楽しんだ。私は、内心これが最後かもしれないと思うと、複雑な気持ちだった。
だってやっぱり、学校で過ごす水野くんはとてもイキイキしているからだ。
「なあ、これからマチに行かないか?」
下校途中で唐突に水野くんが言った。
「マチ?」
「ああ。俺、まだマチの方に行ったことないんだ。マチって、すごく楽しいとこなんだろ?」
マチってどこのことを指しているんだろうか。都会という意味だったら、東京へ連れてってあげるべきか。
……だけどここ、千葉だし。今から東京に向かうと一時間以上かかる。
「あの、千葉駅でいいかな?」
すまない、水野くん。千葉駅だって立派なマチだから!
「おう!チバか!もしかして、オダイバとかあるとこか?ギロッポンは近いのか?」
「魔女に何吹き込まれた?」
残念ながらオダイバもギロッポンもなかったけれど、水野くんは嬉しそうに千葉駅を歩いた。たくさんの行き交う人達に圧倒されながらも、好奇心に溢れた瞳で繁華街をまじまじと眺めている。
「マチはやっぱり賑やかで楽しいな!」
「そうだね。水野くん、次どこ行きたい?何か食べようか。……たこ焼き……はやめとくか」
「なあ」
突然立ち止まったかと思うと、彼は私を見つめた。
「どうしたの?」
水野くんは真剣な顔つきで言った。
「水野くんはやめてくんねえかな。それ偽物だから、呼ばれてる気がしない」
「本当はなんて名前なの?」
「レイは本当だよ。人魚の国は、名前しかないんだ。だから、レイって呼んでくれ」
「レイ……」
つられて本当に名前を呼んでしまうと、レイはニッコリと微笑んだ。
「“輝く宝”って意味なんだ。父上が名付けてくれた」
嬉しそうに、ちょっと誇らしそうに、彼は言った。その言葉と表情で、彼が家族からとても愛されているのを感じた。
「ねえ、……レイ。人間になること、家族は許してくれたの?全部捨てて……って言ってたけど、皆はレイが居なくなって、悲しんでるんじゃない?」
レイは気まずそうに俯いて、何も答えなかった。
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