六日目、初恋とは

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六日目、初恋とは

 ゆらゆらゆら。揺れる水面を眺め続け、もう一時間は経つ。  寄せては返す波が、私を奮い立たせ、かと思うと次の瞬間に、躊躇させていた。  早く。早く言わないと。  同じく隣で砂浜に腰かけているレイも、なにも言わずに波を見続けていた。寂しさなのか、決意なのか、今彼がどんな気持ちで海を見ているのかわからない。  今日彼をこの場所に誘おうと決めたのは、昨日のことだった。母に海へ行くつもりだと伝えたら、最初は凄い勢いで止められた。当たり前だ。つい最近、海で溺れて死にかけたんだから。  それでもなんとか説得して、絶対に海には入らないと言う約束で、許可してもらったのだった。  母は言った。 「揺があの時、死んでしまっていたら、きっと私も後を追っていたわ。それほど、親というのは子供の命が大事なの。ずっと生きていて欲しいのよ。だからお願い。絶対にいなくならないでね」  母の言葉は心底嬉しかった。だけど同時に、すごく切なかった。  それで決心がついたようなものだった。  私はぎゅっと拳を握って、彼を見つめた。私の視線に気づいて、彼は笑う。屈託のない笑顔が、いつの間にかこんなにも眩しく私の心を照らしてくれていたとは。そう思い知って、喉の奥が鳴った。 「……ごめんなさい。やっぱりレイのこと、好きになれない」  私は嘘をついた。  初めて本当の恋を知ったからだ。  恋って辛いんだ。苦しいんだ。痛いんだ。  そう初めて知った。 「やっぱり悠くんが好きなんだ。だからレイ、諦めて海に帰ってよ。きっと皆、待ってるから」  恋って、ただ好きになることだけじゃないんだ。相手の家族とか、未来とか、取り巻く何もかもが大切で仕方なくなることなんだ。
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