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耐えきれずに、涙が少しだけ流れてしまった。それでも私は、必死に笑った。
レイは何も言わなかった。
その声を、聞かせてはくれなかった。
「……レイ?」
まさか。
「レイ?何か言ってよ!」
彼は綺麗な瞳を潤ませて、優しく微笑んだ。そして、ゆっくり立ち上がる。
「待って!レイ!!声を聞かせてよ!お願いだから!」
嘘。嘘だ。そんなの嫌だ。
だってまだ、一週間経ってないじゃない。
「お願い……レイ、声を聞かせて」
彼はもう一度微笑むと、私に手を振り、海に向かって歩いて行く。
「待って!!」
私は必死に追いかけるけれど、海水に足をつけた途端、母との約束を思い出した。
「レイ!!嘘だって言ってよ!!レイ!!」
レイはそのまま海へ潜った。浅瀬なのに、海面を確認してもその姿はどこにもない。
私はなんてことをしてしまったんだろう。
『お願いだからいなくならないで』
きっと、レイの家族もそうだと思ったから。
もう二度と会えなくても、彼が海で元気に泳いだり、歌ったりできれば、それでいいと思ったのに。
「レイ!!」
その場に崩れ落ちて、泣きながら何度も彼の名を呼んだ。
何度呼んでも返事はなく、虹色の泡がいくつも浮かんでは、静かに揺れていた。
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