僕はマーメイド

1/2
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ

僕はマーメイド

「あのさ、実は俺、人魚なんだ」  彼は唐突に言った。ヤバイ奴と関わってしまった。  だって彼、夏休み明け初日の今日、転校してきたばかりで。私の隣の席になったと思ったら、放課後、話があると引き留められて第一声がそれだった。  何もかもが急すぎる。頭がついていかないでいる私に、この、水野 (れい)という転校生は言った。 「俺、お前に一目惚れして人間になったんだ。何もかも捨てて、ここに来た。だから責任とってくれ」 「はぁ?」  こんなに人を不審に思ったことも、あからさまに引いてしまったのも初めてだ。はぁ?なんて悪態ついたことも。  でも、正直言って本当に、この人は頭がおかしくなってしまったんだと思った。  最初からなのか、今日突然おかしくなったのかはわからない。だけど今、一番考えなければならないのは、この状況をどうやって切り抜けるかということだった。  私は取り繕うように笑った。 「水野くんって、面白いこと言うね。それに、人魚だなんて、ロマンチックなこと」 「冗談じゃない。俺は海底の、人魚の国の第三王子だ」 「…………あははは、今日暑いからかな?」  いよいよまずいぞ。これは病院に連れてった方が良いのだろうか。 「王子の身分も放棄して、お前に会いに来た。お前が好きだ。だから俺と結婚しろ」  …………ド直球すぎる。そしてやっぱり展開が早すぎるよ。今私、プロポーズされたの?  何かの罰ゲームか、悪戯なんだと思ったけれど、それにしては水野くんはやけに真剣だった。黒目がちな上に、残りの白目も青みがかっているほど澄んだ瞳で、とことん真っ直ぐに見つめるものだから、私も目が離せなかった。  それに、男らしい言動とは裏腹に、頬は紅く染まっている。握り拳は小刻みに震えているのがわかって、緊張が伝わった。  だからってこの状況を受け入れるわけにもいかない。だって彼、人魚だなんて言って。 「頼む。俺にはもう時間がないんだ」  必死な彼の声に、幼い頃に聞いたおとぎ話を思い出した。 「……もしかして、泡になるの?」
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!