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僕はマーメイド
「あのさ、実は俺、人魚なんだ」
彼は唐突に言った。ヤバイ奴と関わってしまった。
だって彼、夏休み明け初日の今日、転校してきたばかりで。私の隣の席になったと思ったら、放課後、話があると引き留められて第一声がそれだった。
何もかもが急すぎる。頭がついていかないでいる私に、この、水野 冷という転校生は言った。
「俺、お前に一目惚れして人間になったんだ。何もかも捨てて、ここに来た。だから責任とってくれ」
「はぁ?」
こんなに人を不審に思ったことも、あからさまに引いてしまったのも初めてだ。はぁ?なんて悪態ついたことも。
でも、正直言って本当に、この人は頭がおかしくなってしまったんだと思った。
最初からなのか、今日突然おかしくなったのかはわからない。だけど今、一番考えなければならないのは、この状況をどうやって切り抜けるかということだった。
私は取り繕うように笑った。
「水野くんって、面白いこと言うね。それに、人魚だなんて、ロマンチックなこと」
「冗談じゃない。俺は海底の、人魚の国の第三王子だ」
「…………あははは、今日暑いからかな?」
いよいよまずいぞ。これは病院に連れてった方が良いのだろうか。
「王子の身分も放棄して、お前に会いに来た。お前が好きだ。だから俺と結婚しろ」
…………ド直球すぎる。そしてやっぱり展開が早すぎるよ。今私、プロポーズされたの?
何かの罰ゲームか、悪戯なんだと思ったけれど、それにしては水野くんはやけに真剣だった。黒目がちな上に、残りの白目も青みがかっているほど澄んだ瞳で、とことん真っ直ぐに見つめるものだから、私も目が離せなかった。
それに、男らしい言動とは裏腹に、頬は紅く染まっている。握り拳は小刻みに震えているのがわかって、緊張が伝わった。
だからってこの状況を受け入れるわけにもいかない。だって彼、人魚だなんて言って。
「頼む。俺にはもう時間がないんだ」
必死な彼の声に、幼い頃に聞いたおとぎ話を思い出した。
「……もしかして、泡になるの?」
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