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途端に彼は切なげに瞳を揺らしたので、私は不甲斐なくもドキッとした。
「そうだよ。だけど今は仮契約中だから。最近の魔女は良心的なんだ。一週間お試し期間をくれた。それで人間としてやってく決心がついたら、俺は声と引き換えに、人間にしてもらえる。でもお前との恋が実らなかったら、全部パア。泡となって消える」
「……そんな」
……荷が重すぎる。そんなふうに言われたら、とてつもなく断り辛いじゃないか。これで断れる人いる?人魚ハラスメント?
「おい、大丈夫か?」
大丈夫じゃないのはそっちだ。よくもまあ、こんな壮大な嘘が思いついたものだ。大体、私のことが好きだなんて言うのからして怪しい。自慢じゃないけど16年間生きてきて、一度もモテたことはない。一目惚れされるような容姿でもない。
だから尚更、彼の話が理解できなかった。
「じゃあ、証拠を見せてよ」
「証拠?」
「人魚だっていう証拠だよ!」
私の少し意地悪な訴えに、彼は腕を組んで考え込んでしまった。そして
「…………ない」
ハッキリと答えた。やっぱりね。そんなことだろうと思った。
「じゃあ、もうこんな冗談は終わりにしよう」
呆れて教室を出ようとする私の腕を、彼はがっしりと掴んだ。
「でも、お前が好きだと証明はできる」
そう言って、彼は勢いよく私を抱き締める。心臓が止まるかと思った。ときめいて胸が高鳴ったわけじゃない。
彼の体温は、ビックリするほど低かった。名前の通り、冷たいと感じるほどに。
「……で、お前の名前はなんだ?」
「は!?」
彼を全力で説得する一週間が始まったのだった。
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