27人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
母とタコ煎餅の団欒を終えると、私は彼を自分の部屋に案内した。もちろん彼の告白を受ける決心をしたわけじゃない。全力で説得する為だった。
「申し訳ないけど、水野くんの気持ちには応えられない」
誠心誠意頭を下げる私なんか無視して、水野くんは部屋を物色し始める。
「ちょ!やめてよ!勝手に触らないで!」
「へえー、人間のものって面白いな!」
クッションやぬいぐるみ、電気スタンドや机の引き出しなどを弄りまわす水野くん。その瞳は本当に好奇心で輝いていて、怒るに怒れない。まさに、パートオブユアほにゃららが流れてきそうな雰囲気だ。
「なあ!これは何に使うんだ!?」
しかし、タンスの中から私の下着をペローンと取り出した瞬間、堪忍袋の緒が切れた。思い切り彼にグーパンチをくらわす。やはり頬は冷たかった。
「いい加減にして!もう、魔女とか人魚とかどうでもいいから出て行って!……私、好きな人いるから!!」
私の叫びに、さすがの水野くんも目を見開いて黙った。
「……それは……俺以外の奴か?」
「当たり前でしょ」
冷汗をかいて青ざめる水野くん。
「……それは誰なんだ?」
「そ、そんなの関係ないでしょ!」
「まさか……こいつか?」
彼は部屋の壁にどでかく貼ってあるポスターを指さした。
「なんで!」
……なんでわかったの!?
水野くんが睨みをきかせているそのポスターの中には、爽やかな笑顔で白い歯を見せているアイドルの悠くんが鎮座している。
彼の言う通り、私の好きな人。
「そうだよ!この人が好きなの!気持ち悪いでしょ!笑うなら笑えば!?」
中学生の頃から、好きになってもう三年になる。爽やかで、いつも一生懸命で、ファン想いで。辛いことがあった時も、彼の笑顔を見ると頑張れた。誰になんと言われようと、彼が初恋の相手なのだ。
「腸は煮えくり返るけど、気持ち悪くはないぞ?それに、笑えない」
彼のあっけらかんとした表情に、私も調子が狂ってしまう。
「こいつは誰なんだ?」
「……アイドルの悠くんだよ」
「アイドルって?」
「手の届かない存在のこと」
「そうか。……じゃあ」
水野くんは優しい眼差しで微笑んだ。
「俺の恋と一緒だな」
彼は馬鹿にしなかった。
思ってもみなかった水野くんの反応に、逆に戸惑ってしまう。
「……ありがと」
「だけどぜってえ負けねえぞ、お前!聞いてんのか!?揺は渡さねえから!」
ポスターを再度睨みつける水野くん。何もわかってなかっただけかもしれない。
それでも私は、内心少し嬉しかった。そして、本当に僅かだけれど、彼の話を信じそうになっていた。
最初のコメントを投稿しよう!