一日目、私には好きな人がいます。

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 母とタコ煎餅の団欒(ひともんちゃく)を終えると、私は彼を自分の部屋に案内した。もちろん彼の告白を受ける決心をしたわけじゃない。全力で説得する為だった。 「申し訳ないけど、水野くんの気持ちには応えられない」  誠心誠意頭を下げる私なんか無視して、水野くんは部屋を物色し始める。 「ちょ!やめてよ!勝手に触らないで!」 「へえー、人間のものって面白いな!」  クッションやぬいぐるみ、電気スタンドや机の引き出しなどを弄りまわす水野くん。その瞳は本当に好奇心で輝いていて、怒るに怒れない。まさに、パートオブユアほにゃららが流れてきそうな雰囲気だ。 「なあ!これは何に使うんだ!?」  しかし、タンスの中から私の下着をペローンと取り出した瞬間、堪忍袋の緒が切れた。思い切り彼にグーパンチをくらわす。やはり頬は冷たかった。 「いい加減にして!もう、魔女とか人魚とかどうでもいいから出て行って!……私、好きな人いるから!!」  私の叫びに、さすがの水野くんも目を見開いて黙った。 「……それは……俺以外の奴か?」 「当たり前でしょ」  冷汗をかいて青ざめる水野くん。 「……それは誰なんだ?」 「そ、そんなの関係ないでしょ!」 「まさか……こいつか?」  彼は部屋の壁にどでかく貼ってあるポスターを指さした。 「なんで!」  ……なんでわかったの!?  水野くんが睨みをきかせているそのポスターの中には、爽やかな笑顔で白い歯を見せているアイドルの(ゆう)くんが鎮座している。  彼の言う通り、私の好きな人。 「そうだよ!この人が好きなの!気持ち悪いでしょ!笑うなら笑えば!?」  中学生の頃から、好きになってもう三年になる。爽やかで、いつも一生懸命で、ファン想いで。辛いことがあった時も、彼の笑顔を見ると頑張れた。誰になんと言われようと、彼が初恋の相手なのだ。 「腸は煮えくり返るけど、気持ち悪くはないぞ?それに、笑えない」  彼のあっけらかんとした表情に、私も調子が狂ってしまう。 「こいつは誰なんだ?」 「……アイドルの悠くんだよ」 「アイドルって?」 「手の届かない存在のこと」 「そうか。……じゃあ」  水野くんは優しい眼差しで微笑んだ。 「俺の恋と一緒だな」  彼は馬鹿にしなかった。  思ってもみなかった水野くんの反応に、逆に戸惑ってしまう。 「……ありがと」 「だけどぜってえ負けねえぞ、お前!聞いてんのか!?揺は渡さねえから!」  ポスターを再度睨みつける水野くん。何もわかってなかっただけかもしれない。  それでも私は、内心少し嬉しかった。そして、本当に僅かだけれど、彼の話を信じそうになっていた。  
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