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水野くんは学校でも、持ち前の好奇心を全力で発揮した。何を見るにも、何をするにも、とても嬉しそうにその綺麗な瞳を輝かせる。自分の机と椅子があるというだけで大喜びし、私にとっては退屈な数学の授業も、一生懸命耳を傾けていた。
不躾で意味不明な人には変わらないけれど、彼の根本的な性格は真っ直ぐで潔く、カラッとしている。そんな彼のことを、男女問わず皆好きになっていくのがわかった。
水野くんが一番興味を示したのは、屋上にあるプールだった。
昼休みに校内の案内をしている時、彼はその場所に気づいて興奮気味に言った。
「水だ!水!これはなんだ!?海に繋がってるのか!?」
「違うよ!プール。泳ぐところ」
「泳いでいいのか!?」
だめだと言う前に、彼は服を着たままプールに飛び込んだ。やっぱりヤバイ奴。
「ちょっと!やめなよ!怒られるよ!」
私の忠告を無視して、水野くんはひたすら泳ぎ続けている。そのスピードは目を見張るもので、制止するのも忘れてしまった。
服を着ている分の負荷がある筈なのに、そんなものは微塵も感じていないというふうに、水野くんは本当に気持ち良さそうに泳いでいた。水泳選手とも違う体の動かし方というか、ひとつも無理がないような、水と一体化しているような具合だった。
揺れる水面すら、彼を待ち望んでいたかの如く、歓喜のダンスを踊っているように見えてくる。
まるで、ふるさとに帰ってきたみたいに、ごく自然に、そして幸せそうに水中に漂う水野くん。その姿に、正直言って見惚れてしまったのだった。
馬鹿みたいだけど、もしかしたら本当に、彼は人魚かもしれない。そんなことを思いながら。
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