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三日目、夏風邪は人魚がひく
「……うーん、……うーん」
また次の日のこと。朝からずっと、水野くんは小さな声で唸っている。
「いくら夏だからって、服着たままプール入るからだよ」
私は呆れながらも、水野くんの額に冷たいタオルをのっけた。
昨日はあれからすぐに先生に見つかってしまい、二人揃ってこっぴどく叱られた。水野くんは当たり前だけど制服がびしょ濡れで、着替えもなかったので仕方なく早退することに。
家に帰ってからも、なんだか元気がないなと思ったら、今朝、彼は熱を出した。
と言っても、彼に触れるとやはり体は冷たかった。だけど体温計は38.5℃まで上がるし、本人も辛そうなので、おそらく発熱はしているんだと思う。
「ごめんな。揺も学校休ませちまって……」
水野くんは、そう弱々しく呟いた。
熱のせいか顔は赤く、潤んだ瞳で荒く呼吸している彼を、私は直視できずに口調も強めになってしまう。
「仕方ないでしょ。お母さんも仕事だし、他に看病できる人がいないんだから!」
今のはさすがに素っ気なさ過ぎただろうか。病人に対しての態度ではなかったと少し反省して彼を見ると、水野くんは布団に包まりながら嬉しそうに笑っていた。
「………揺はやっぱり優しいな。さすが俺が惚れた女だ」
彼がそうやって真っ直ぐに想いを伝えてくれる度に、おかしな罪悪感が膨らんでいる自分に気付いた。
私は、水野くんが全てを懸けて恋をするような、素晴らしいヒロインではないからだ。
「……だから考え直してよ」
初日よりももっと本当の意味で、私はこの現状に困り果てていた。
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