揺らめく水中、一目惚れ

1/1
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ

揺らめく水中、一目惚れ

 ゆらゆらゆら。目を閉じていても、眩しい光に包まれているのがわかった。  眠りに落ちる寸前のように、全身の力が抜け、心地よさまで覚える。  こうして私は死んでゆくんだ。そう、なんとなく実感した。  漠然としすぎていて、頭の中に誰の顔も浮かんでこなかった。走馬灯なんて流れない。  死とは、想像していたよりもずっとあっさりしたものなのだと、ぼんやり思いながら堕ちてゆく。  揺らぎに任せて漂いながら、ただ堕ちてゆく。  でも、あるところまで堕ちると、今度は上へ押し上げられるような感覚があった。それは瞬く速さで、自分ではどうすることもできない。 ――――「……よう!起きて!(よう)!」  次の瞬間、ぼやけた視界に泣いている父と母の姿が現れた。  自分が今どこに居るのか、何をしていたのかもわからない。ただ、生きているということだけはわかった。……夢だった。どうりで苦しくなかったわけだ。 「良かった……。揺、生きてて……」  私が目覚めたことを泣いて喜んでくれる両親を見つめながら、混乱している頭を整理していくと、じわじわと恐怖がわいてきた。  死にかけたんだ。だけど助かった。どうして死にかけたのか、どうして助かったのか、全く思い出せないけど。  鼻の奥に、つんとした痛みを感じながら、白い布団に包まれ天井を見上げた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!