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「最終電車」【お題 スーツ、付箋、ウィンクのキーワードで短編を書いて下さい】
俺は珍しくベロンベロンに酔っていた。
会社では上司に怒鳴られ、家でも妻に怒鳴られ…人生がどうでもよくなっていた。
ふらふらと終電へと乗り込み、誰も居ない席へと腰掛ける。向かいの窓にはだらしのないスーツ姿の男が映っていた。
今日は車内が異様な雰囲気がした。
なんかどんよりする様な。
不気味な雰囲気。
「お隣…いいですか?」
もうろうとした頭と目で隣を見ると、サングラスとマスクをした髪の長い女性が隣へ座っている。
タイトのミニスカートから白い太腿が見え、ゴクリと喉が鳴る。
少し酔いが冷めた気がした。
女性の香水の匂いが鼻に抜けていく。なんか懐かしい匂いがした。どこかで、会っただろうか。
「次、終点〜」
あぁ、降りなきゃと思った瞬間、手の甲に付箋を貼られ、脇腹に鈍い痛みを覚えた。
「さようなら」
飛びそうな意識の中、見上げた顔はもうサングラスもマスクも取っていて、ようやくこの時に気付いた。
「ひ、ひとみ…?」
「そうよ、あんたに捨てられたひとみよ。せいぜい苦しみながら死んでいってね」
彼女はそう言ってウィンクをした。
ヒールの音が響き、俺はそのままスローモーションの様に倒れ込んだ。
頬には冷たくて硬い感触。
脇腹からは生温かい液体が流れていく感覚。
ドクドクと耳に響く心臓の音。
手の甲には…
「復讐よ、死ね!」
の付箋が貼ってある。
やっぱ…不倫なんて…するもんじゃないな…
電車の終点のアナウンスが頭蓋骨に鈍く響き、
俺は目蓋をゆっくりと閉じた。
永遠に——。
end
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