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「訳ありメガネ屋」【お題 眼鏡をかけない眼鏡屋さん】
普通のメガネ屋に見えた。
重厚な扉をギーッと開けると、生暖かい風が頬を掠めた。どんよりした空気に吐き気がしてむせる。
「いらっしゃいませ」
店員は三名ほど。みんなメガネははめていない。
どれ、どれと品定めをすると…
その店に置いてあるメガネは、割れていたり、ヒビが入っていり、フレームが曲がっているものもある。原型が分からないものもある。
赤い血液みたいなものが付いているものもある。
「うわっ!何、これっ?!」
「当店のメガネは全て、〝訳あり〟となっております。ネームプレートをご覧になってみて下さい」
一つ一つにネームプレートが添えてあり、何やら書いてあり、顔写真も載っている。
〝○月○日、am8:15 交通事故死〟
名前と生年月日、どんな人生を歩んできたかが省略して書かれている。
「…え?交通事故死?」
「その方が亡くなられた時にしていたメガネです。顔写真は遺影をお借りしました」
他のメガネにも、
〝○月○日…首吊り自殺〟
〝○月○日…転落事故死〟
カタカタと体が震え、背中を変な汗が滴り、顔がサーッと青褪めていく。
とんでもないメガネ屋に来てしまった…。
そんな事を思っていた時、
「新入荷です」
一人の店員がその新入荷したメガネを店頭に並べた。そのメガネを見た時、ドクンッと心臓が脈打つ。
そのメガネは見た事があった。
急いでそのメガネへと駆け寄り、フレームの内側を確認する。
〝Y.K〟と俺のイニシャルが掘ってある。
今はめているメガネと全く同じだ。
このメガネは特注で作ってもらった世界に一つしかないもの。
何で、それが、ここに並んだ?
ネームプレートを震えた指先で確認する。
〝○月○日、am10:18 射殺〟
時計を確認する…今から5分後?
そして、名前と顔写真を確認する。
「う、うわぁぁぁ!!!!!」
お、俺じゃないかっ!!!
背後からギーッと扉が開く音がして、
「お前、手を上げろ!」
とマスク姿の男が声をあげている。
手には黒い銃。
もう、周りの店員たちは中へと逃げたようだ。
逃げ足速い奴らだな…
こんなメガネ屋入るんじゃなかったな…
まだ間に合うか?急いで逃げるか?
俺は必死に逃げようとした…
バン!!
冷たい床に倒れ込んだ時に一瞬、
俺の遺影が目を掠めた。
にこりと優しく微笑んでいる顔だった。
end
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