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どんよりとやる気の出ないまま、成人式に出席する。目立たないように隅っこで静かにしてたはずが、バカデカい図体はすぐに見つかって、同級生たちに囲まれてしまった。
遠目にスーツ姿の彼が見えた。いつだって目は彼を追っていて、逸らそうとしても引力みたいに強烈な何かが俺を捉えて離さないから、バレないようにせめて視界の端に留めておくんだけど。今日もやっぱり可愛くて美しい真っ白な横顔が、黒いスーツに映えて本当に、もうホンットに目の毒だ。
細い黒ネクタイも、エレガントなブリティッシュスタイルの黒いスーツも体型にピッタリで、めちゃくちゃ似合っていた。クロップド丈のパンツから覗く細い足首は素足で、エナメルの華奢なローファーが足元を華やかに見せている。
ダボダボっとした既製品のスーツを着せられている同級生たちとの差は歴然で、垢抜けすぎてて逆に浮いてる彼の周囲を、晴れ着姿の女の子たちが取り囲んでいる。そりゃそうだ。見目よし、家柄よし、学歴よし、の超優良物件が目の前でにこやかに手を振ってくれるんだ。もはや彼の周りだけアイドルの撮影会の様相を呈していた。
…近寄らんとこ。
俺は全神経を総動員して断腸の思いで背を向けた。とりあえず視界から外すことには成功した。どんなに意識があっちに向いていようとも、俺の動悸が頭おかしくなるくらい激しく鳴り響いていようとも、鉄壁のポーカーフェイスで乗り切る。たった数時間の辛抱だ。だから痛むな、俺の心臓。
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