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触れている指は氷のように冷たいのに、頬がピンク色に上気している、まるであの夜のように。
いつもの銀縁眼鏡に、定番のグレーのダッフルコート。黒いパンツと、黒いリュック。いつもの彼の格好と違うのは髪型くらいだ。顎のあたりで切り揃えられていた髪は、右側だけ長いまま残っていて、左側にいくにつれ短くなるアシンメトリーになっていた。個性的で人を選ぶ髪型でも、彼がすると当然のように似合う。
本当に、何度見ても、何年経ってもまだ、この美しさには慣れない。見惚れて、見直して、惚れ直してしまう。こんなループ、もう止めたいのに。
彼は少し不機嫌そうで、常態ならわずかに上げられている口角が今日はぎゅっと真横に引き結ばれている。怒って、いるのだろうか。いや、何にだよ。怒るっていうなら俺の権利だと思うんだけど。
それにしても徹底的に避けていたのに運悪く見つかったばかりか、何故か至近距離で詰め寄られている。新年明けてから運が悪すぎやしないだろうか。お祓い行っときゃ良かった。
とりあえず、この場から逃げたい気持ちでいっぱいの俺は、彼から視線を外して手を振りほどこうとしたのだが、抜けない。びくともしない。え、離してよ。
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