終着

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「なんで逃げんの」 久し振りに聴いた彼の声は、記憶より数段低くて、訛りが強かった。明らかに怒っている声音に一瞬怯んで、びくりと身体が震えた。 手首越しに震動が伝わったはずなのに緩めることもせず、彼は更に畳みかける。 「なんで話してくれないの」 「メッセージだってたくさん送ったのに」 そう、あの日以来、彼からは何度となく電話もメッセージも届いていた。届いていたのに、あえて無視した。 何て返せばいいのか分からなかった、のが半分。 あとの半分は、恐かったのだ。彼の言葉を聴くのも見るのも、それが良いことであっても悪いことであっても、彼の本心に触れることが恐かった。だから逃げた。 着実に増えていく着信数と未読件数を横目で見ながら、まだ繋がろうとしてくれているのだと嬉しく思う自分が滑稽で、憐れで、惨めで嫌だった。 大学でも決して逢わないように避けまくってきたのに、テスト終了の翌日に来る物好きなんていないだろう、と気が緩んだのが間違いだった。 彼の意外な執念深さに、今更ながら驚かされる。でも一体なんでわざわざ。
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